第10話 冥王、手本を示す

冥王を中心に扇状に生徒たちは座る。ガイコツは冥王の側に侍るように立っている。

「ホホホ。まあ、まずはお手本をお見せしましょう。来れ『冥炎』。」

冥王の手のひらに黒い炎が出現する。


「黒い炎…。」

アーシェは、暗闇より深い闇を宿す炎に見入ってしまう。


「え?人間が使う魔法じゃないデュフ。」

ベルはあり得ないものを見た気分になる。黒い炎なんてものを魔法で作る人間の話を聞いた事はなく、炎からは熱を感じない。しかし、触れたら燃やし尽くされるような存在感を感じる。

冥王は炎が発する熱さえもコントロールしているのではないかと思った。その通りだとすると、あまりのレベルの高さにただ笑うしかなくなる。


「ホホホ。そうですねえ。冥界に属する者の魔法ですねえ。冥界の炎を召喚するものですので、周囲のマナを消費するマナ召喚魔法とも、術者の魔力による詠唱系とも異なりますねえ。

細かく解説すると、『来れ』は冥界と現世をつなぐルートを作り、『冥炎』は冥界の炎を呼び出す。双方に魔法を発動する『宣言』の性質があると言えますねえ。」

生徒たちは、冥王が自身の魔法について丁寧に説明していることに驚く。自分たちが知る魔法体系とは異なる体系の存在に好奇心が刺激される。


「腐腐腐…黒炎×冥王…腐腐腐…。」

ローズの想像はは人ではないものにも及ぶ。ベルは「また始まった」という顔になり、アーシェはローズのつぶやきの意味が分からず不思議そうに見ている。


--何かとんでもないことを考えてますねえ。


『びいえる』については、冥王が噂で聞いていたものより更に進化しているようだ。


「それは…僕たちに使うことはできるのでしょうか?」

シンは冥王に聞く。


「ボソッ (アンタにあんな怖い炎似合わないよ…。)」

それを聞いたサラは小さく呟く。あの炎は人間が使っていい類のものではない。サラの本能はそう告げている。


「ホホホ。誰しも向き不向きがありますから、皆さんに使えとは言うつもりはありませんねえ。サラさんのおっしゃる通り、アナタには向かないような気がしますねえ。」


--えっ?聞こえてた!


サラは驚く。この流れだとあの炎の召喚をさせられると思ったが、そうでもなさそうな事にも驚いた。


「でも!僕は強くなりたい!どんな方法を使っても!」


--アンタはまだ…


サラは思う。あの時もう少しだけ強ければ、あの結末は変えられたのではないか。故郷のセレネ村であの子が笑っていられたのではないか。その考えがサラの胸を締め付ける。


「ホホホ。若いですねえ。目的があるからこそ手段は選ばなければなりませんねえ。」

「ヒョヒョヒョ。慌てて自滅する!愚かなる人間にはお似合いの末路だ!」


「ホホホ。ガイコツさん、あまり厳しいことを言ってはダメですねえ。」

「は。冥王様!申し訳ありません!」


--ガイコツさん…同じことで怒られてる…。


アーシェは少し呆れるが、言っている内容自体はそう間違えてはいないのだ。

学園からは『自分を冥王と思い込んでいる変人』と『謎のアーティファクトでスケルトンに変身している猛者』で、『冥王とその部下という設定』で動いている、と説明を受けている。しかし、あの炎は人間に扱える類のものではないし、ガイコツの影がスケルトン以外の何者でもない以上、『冥王とその部下』と考えざるを得ない。しかし、『冥王とその部下』の割に発言内容からは自分たちに対する悪意を感じない。


「じゃあ、どうすれば…。」


「ホホホ。慌てるのは精神の弱さの表れですねえ。そして、全てにおいて精神が弱い者から脱落していくことが多いのですよ。」


「………。」

精神の弱さ。そんな事は分かっている。しかし、そんなものをどうすればいいのか。シンには分からない。


「ホホホ。まずは落ち着くことです。全てはそこから始まるのですよ。」

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