第9話 Zクラス、歩きながら語らう

「ホホホ。外に出るのもいいですねえ。」

「ヒョヒョヒョ。実にいい陽気ですな!」

冥王とガイコツは風景を楽しみながら歩いている。

ヘクトールには腕のいい庭師がいるようで、校庭を散策も楽しめるのだ。


「あのガイコツさん…アンデットじゃないの?太陽の下でダメージないの?」

アーシェは近くを歩くベルに声をかける。


「デュフ?どうしてボクに聞くのデュフ?」

ベルは女子から声をかけられたことに驚いた。しかも、隣の席でここ数日、何度か声をかけようと思っていたけど、かけられなかったアーシェにだ。


「だって貴方が詳しそうだから…」

ベルは見た目からしてオタクだ。だからか、とベルは納得したが、アーシェからは蔑むような気配が感じられないことに驚く。


「デュフフ…あのガイコツはアーティファクトの力でガイコツに化けた人間らしいけど…」

「影が…」

「人間じゃなくて…」

「ガイコツなんだよね…。」

「デュフ。」

アーシェとベルは交互に言い合い、何か通じ合うものを感じる。



「腐腐腐。ベル、ちょっといい雰囲気じゃない?」

ローズがベルに話しかける。ストレートの黒髪を無造作に束ねている。アーシェの灰色に近く柔らかい感じのする銀髪とは対照的だ。見た目に頓着しない様子だが、容姿が整っていることが分かる。

「そんなんじゃない…。」

今初めて話しただけで、そんなつもりはない。しかし、こんな綺麗な娘とベルが知り合いであるということにアーシェは驚いてしまった。

「確かにお話できて嬉しいけど、そんな事言ったら迷惑だデュフ。」


--嬉しいんだ…。


ベルの言葉にアーシェは少し嬉しく思った。侯爵家では、そのように言われるまでもことがなかったからだ。

「それより、冥王×ガイコツとガイコツ×冥王のどちらがいい?主従萌えってどう?」

ローズは、自分の趣味を広めようとカプについての話題をアーシェに振る。ローズとしては、身近な人物のカプの話から広げていきたいのだ。

「ごめんなさい。ちょっと何言ってるかわからない…。」

アーシェには、『びいえる』についての知識がないため、返答に困る。順序が変わると何が違うのだろう?


「人との距離の詰め方間違えてないかデュフ?」

「腐腐腐。ぼっちのオタクに言われたくないわー。『勇者爆発しろ』とか引くわー。」

「デュフ。冥王×獣王とかわけわからんこと言っているヤツに言われたくないデュフ。」

「腐腐腐。至高のカプの良さを理解できない豚が…。」

「豚とはあんまりだデュフ!」

言っている内容はともかく、ベルとローズの仲には時間の積み重ねを感じる。自分には…そんなものはないことに淋しさを感じる。


「豚さん…かわいいよね。」

ベルが豚と呼ばれたときに、ふと両親と領地の村を訪れた思い出が蘇る。村長の家で飼っている豚に子供が産まれたばかりの時で、子豚の可愛らしさに自分でも飼いたいと駄々をこねて両親を困らせたことを思い出す。


--なら、豚でもいいかなデュフ。


アーシェが言うなら、それで良いベルはと思ってしまった。


「腐腐腐。ベル、こんな可愛い子とお話しできて良かったね。一生の思い出ね!」

「デュフ!デュフ!デュフ!」

「動揺して面白い…腐腐腐。」


ローズは揶揄うように言い、ベルは慌てている。見ていて、悪くないように思った。自分もこういう関係になれたら…。そして、ベルやローズに自分が可愛く見えていることが嬉しい。



「あのオタク…女子二人と話をしてる。勇者じゃなくてアイツが爆発すればいいのに。」

マグシスはベルたちの会話を聞きながら隣のジェイドに話しかける。女子と話したことがないようなことを言っていたのは何だったのか?

「去年は女子はランちゃんだけだったけど、今年は何人かいるよな。それだけで俺は猛烈に嬉しい!それに女子はあの子たちだけじゃない!」

ジェイドはそんな一時的なことを気にしなくてもいいと感じている。女子はあと3人いるのだ。誰かと仲良くなれればいいと思っている。



「シン、アンタさー、あんなに頑張ってたのにZとかマジウケる。」

とサラは隣を歩くシンを揶揄う。この二人はセレネ村という辺境の村出身で幼なじみだ。

そのため、言い方に遠慮がない。

「人が気にしてることをズケズケと言わないで下さい!」

一番気にしていることをズケズケ言ってくることに、シンは苛立ちつつもありがたく思う。Zクラスになったことでサラに失望されることをシンは恐れていたからだ。

「ゴメンて。お詫びにお昼はアーンしてあげるからさー。」

「アーンて、僕は子供じゃない…。」

「嬉しいくせにー。」


--アタシはアンタと一緒で…嬉しいんだけどさ!


サラはシンと一緒で嬉しい。悲しいことも嬉しいことも、シンと一緒に乗り越えていきたい。

「何か言いました?」

「何でもない!」


--声に出てた!


サラは少し焦る。思いは通じているはずだが、確認するのは少し怖いのだ。



「……青春だなー。」

マグシスは少し悲しくなった。女子5人のうち、すでに3人は自分以外と打ち解けている。

「ソウデスネ。」

ジェイドも悟りでも開かないとやってられない気持ちになる。


「あのう、すみません。去年のZクラスはどうだったんですか?大賢者様のお話を聞いてもいいですか?」

マグシスとジェイドにプラチナブロンドの女子生徒が話しかける。レアン子爵家の令嬢で、名はイリスだ。

アーシェやイリスのような貴族令嬢に話しかけるのを躊躇していた2人としては、貴族令嬢から話しかけられることが驚きだった。


--俺らの青春キター♪───O(≧∇≦)O────♪

--身分差!燃える!!


マグシスとジェイドの留年生活に光が差した。



「ホホホ。それではこの辺りにしましょうかねえ。」

冥王はグラウンドの片隅に着くと、生徒たちに声をかけるのであった。

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