第6話 冥王、生徒たちに事情を聞く①

「ホホホ。それでは授業を始めようと思いますが…。何か聞いていたのと違いますねえ。Zクラスは落ちこぼれ集団と聞いていたのですが…。落ちこぼれとは言い難い人たちが混ざっていますねえ。」

 冥王は学園長アイヴァンから各クラスの説明を受けていた。自分が受け持つZクラスは本来なら不合格の生徒を受け入れるクラスなのだと。不合格の生徒を受け入れる事が大賢者ゼニスの方針で、留年・退学する者がほとんどだが、不思議と成功する者が多いクラスなのだと。

 そして、女子生徒は殆どいないと聞いていた。昨年は例外的に一人いたというが、それは珍しいという。しかし、今年は5人いる。

 不思議に思い、入試の筆記試験、実技試験の結果を調べた。少し配慮すれば合格に達したであろう生徒、そして生徒の前に立つと、落ちこぼれには見えない生徒が数名いたのだ。


「ヒョヒョヒョ。冥王様におかれては、落ちこぼれだろうが優秀であろうが些末なことに過ぎますまい。」

 大戦時の英雄の水準に達しなければ、SSSだろうがZだろうが関係ない。今の段階で、冥王や大賢者が戦闘で使用する魔法を防ぐ事ができる生徒は全クラスを見回してもいないだろう。このため、子供の頃の優劣など冥王にとっては無きに等しい。そして、英雄というものは、一回の試験で分かるものではないのだ。それで分かるくらいなら、大賢者はこんなクラスの担任をする事もなかっただろう。


「ホホホ。今はドングリの背比べみたいなものですが、長ずればワタシをも脅かす存在になりうるのですよ。大賢者のようにねえ。」

 冥王は大賢者に思いを馳せる。確か大賢者は、このような温室ではなく、スラムでの生存競争を生き抜いたことがあの強さの土台にあるという。


「ヒョヒョヒョ。たかが人間ごとき。この私めにお命じ頂ければ、冥王様のお手を煩わせることもなく、大賢者も冥府へと旅立つことでしょう。」

「ホホホ。そうするとワタシの楽しみが無くなるのでやめてもらいたいですねえ。」

「は。差し出がましい事を申し上げてしまい申し訳ございません!」

「ホホホ。アナタの忠心、頼もしく思っていますよ。」

 大賢者ゼニスは冥王の闘争心を満足させることのできる数少ない相手だ。そう簡単に冥府に去られても困る。そして今では茶飲み友達のようになっている。

『冥王の剣』を大賢者から取り戻す事が大賢者と戦う理由の一つだったが、『冥王の剣』は愛弟子に託されてしまった。その愛弟子はまだ年端も行かぬ少年であるため、まだ、冥王である自分と戦うに値しない。

 このため、『冥王の剣』は後回しになり、今は冥王はある『盟約』を果たすためにヘクトールに現れ、行きがかりで教師をしている。


 --何なの、あのガイコツ…。

 アーシェはガイコツのあまりの物言いに驚く。大賢者さまを冥府に?明らかに人間の発想ではない。

『冥王とその部下』という設定で話をしているというのが学園の説明だが、全ての人間が敬意を表すべき大賢者さまに対する物言いではない。


 --デュフフ。学園長の弓を躱すガイコツ…回避能力は『即逃げモンスター』クラス…。

 あのガイコツの能力でわかっている事は回避能力のみだ。しかし、どこの世界に回避能力で『即逃げモンスター』の領域に達する人間がいるのか。ベルの興味は尽きない。


 --冥王×ガイコツもアリ…。

 ローズはガイコツの発言の内容などどうでも良かった。ただただ、カプの成立とカプの間で営まれる愛の行為に思いを巡らすのみだ。


 ホホホ。また悪寒がしますねえ。風邪ですかねえ。

 そのローズの妄想に冥王はまたもや悪寒を感じる。


 --話が逸れていく…。

 アーシェたちより後方に座るメガネをかけた少年はこのやりとりに辟易としていた。

 メガネの少年、シンはここ数日の自習で学園から貸与された教科書は書き込みに至るまで読み込んだ。

 放課後に試したい事ができたので、そのシミュレーションをしたいのだが、シンは教壇の二人から目が離せないのであった…。

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