第5話 冥王、クラス目標について説明する
冥王の教室設定--SSS担任研究ノートから--
・冥王秘術『八大邪』
【狂 戯 乱 盗 淫 弄 悦 惑】の詠唱とともに魔力による8つの力場を発生させ、『八大邪』と『宣言』の言葉を発することで発動する。消費魔力は1000×秒。消費魔力の多さに冥王以外に使用者はいない。
なお、完全に成功した場合は、生きたまま冥界に叩き落とされると云われている。
・聖法秘術『八大聖』
大賢者のみが扱える『聖法』の秘術。『冥王秘術』と対になっている。
【仁 義 礼 智 信 孝 悌 忠】の詠唱とともに魔力による8つの力場を発生させ、『八大聖』と『宣言』の言葉を発することで発動する。消費魔力は1000×秒。消費魔力の多さに大賢者以外に使用者はいない。
・大賢者と冥王の一騎打ち
先の大戦で冥王は大賢者を付け狙い、幾度となく一騎打ちが繰り広げられた。最終的に『八大邪』と『八大聖』の打ち合いとなり、大賢者が勝利した。
◇◆◇
--冥王秘術『八大邪』……。その詠唱をクラス目標にするなんて……! 生徒たちを魔の道に引きずり込むつもり? そんな事、絶対に認めない!
フィオナは心に固く誓い、冥王の言葉を待つ。そんなフィオナに対し、冥王は当たり前のことを言うように説明を始める。
「ホホホ。それでは説明致しましょう。
『狂』…死にもの『狂』いで能力向上に努める。
『戯』…遊び『戯』れることも忘れない。
『乱』…いずれ訪れる『乱』世に備える。
『盗』…教えてくれるのを待つのではなく、智識、技を『盗』むことを心がける。
『淫』…『淫』らなことをする際には相手が傷つくような事はしない。
『弄』…策を『弄』して強者と相対した際の生存率を上げる。
『悦』…生きる『悦』びを胸に日々を過ごす。
『惑』…迷い『惑』うときは心置きなく、迷い『惑』う。
ということですねえ」
--意外とまとも……。『相手が傷つくような事はしない』……。私は傷つけられてばかり……、これからもきっと……。生きる喜び……私には遠い言葉……。
アーシェは長いとは言えない自分の人生を振り返りながら思った。何度も何度も考えないようにしているのに、考えてしまい、そして悲しくなってしまう。
--デュフフ……。大賢者様と一騎打ちを繰り広げ、獣王軍との戦いでは邪法により王国軍を壊滅の危機に陥れた冥王……。あの教師、コスは完璧、設定はボクの知る冥王とは違いますな……。
アーシェの隣に座る太った男子生徒。名前をベルという。比較的裕福な商家の生まれで、ヘクトールには箔付けのために入学した。
--腐腐っ! 冥王×獣王のカプこそ至高……。口ではイヤなことを言いつつ、実際にしてることは……。あゝ、あのデレがたまらないわぁ!
アーシェの後ろに座るこの女子生徒の名はローズ。こちらも商家の生まれで、幼年学校ではベルと一緒だった。とは言っても特に仲がいい訳ではないというのが本人たちの認識だ。ローズとベルの趣味が特殊なため、彼らの交友関係は狭く限定されているからだ。
--ホホホ。この悪寒は何なんでしょうねえ……。
自分に悪寒を感じさせる存在がこの教室にいることを冥王は面白く感じている。
「ヒョヒョヒョ。冥王様の遠大なる御心。この私め、心に沁み渡る思いです!」
ガイコツは賛辞を贈る。生徒たちは自作自演の寸劇を見せられている気分になったが、冥王が言わんとしている事が意外とまともな事に驚いている。
「何かいいこと風に言ってるけど、『惑』って何よ! 生徒が悩んでいるなら、相談に乗ってあげなさいよ!」
「ホホホ。迷い惑うのは若者の特権ですねえ。心置きなく迷い惑って見出した答えこそが人生の糧になるんですよねえ。それに、ワタシが相談に乗るのをアナタは認めるのですかねえ」
怒りを隠さないフィオナに冥王は落ち着いて答える。
--冥王に相談する? よくよく考えると想像がつかない。『自分を冥王と思い込んでいる変人』に何を相談するのか?
フィオナは冥王の言い分を認めざるを得なかった。
「うう……。それに『淫』って……。生徒がそんなことするのを放置するなんて……!」
フィオナは恥ずかしそうに言う。冒険者として、修練、研究、探索の日々を送ってきたため、この手の話はあまり経験がなかったのだ。
「ヒョヒョヒョ。顔が赤いぞ、人間の女。お前まさか……、◯◯なのか?」
ガイコツが中年のおっさんのような揶揄い方をする。
「う、うるさいわね! 修行や研究、冒険の日々を送っていたら、そんなヒマなかったんだから!」
10年以上、そんな日々を過ごしていた。気がついたら憎からず思っていた人は自分以外の人を見つけ、友人は結婚していく。しかし、ガイコツの言葉は自分の人生で見ないようにしていたことを思い出させるのに十分だった。
「ホホホ。ガイコツさん。そんな事をあんな綺麗な方に言うのは失礼ですよ。」
「な、何よ! そう言えば女は喜ぶとでも思っているの! 馬鹿にしないで!」
恋人がいない、結婚していない、そんな女はダメなのか。男は女の容姿を褒めれば許されるのか。そんな物言いを何度も聞かされてきたフィオナはいつも苦々しく思っていた。
「ホホホ。アナタを形作る修練と実践の日々……、実に美しい。アナタの立ち振る舞いから分かるのですよ。そんなアナタは先の大戦の英雄たちと比べても遜色ないですねえ」
冥王の言葉は違った。容姿ではなくフィオナが過ごした日々を美しいと言ったのだ。しかも、自分が憧れた英雄たちと同じだと。人間の敵である冥王から、そのように言われることはフィオナにとって考えてもいないことだった。
「〜〜〜! きょ、今日のところはこれくらいにしてあげるわ!」
フィオナは居た堪れなくなって教室から出て行くことにした。少し顔がにやけてしまっていることについては気がつかないフリをした。
「ホホホ。流石はSSSを担当するだけありますねえ。では、授業を始めると致しましょうかねえ」
冥王は新たな好敵手になりそうな者の存在に満足した。冥王が求めるものは、常に強者、そして強者を目指す者なのだ……。
◇◆◇
--何なの!思わず出て行っちゃったけど……。いいえ、うちのクラスの授業があるから教室に向かっているだけだから!
SSSクラスに向かいながら、フィオナは独り言ちる。先の大戦で英雄たちと戦い、ある意味自分たちよりも英雄たちを知っているであろう冥王の言葉にフィオナは喜びの気持ちを少しだけ抱いてしまった……。
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