魔王様は逃げられない
蒼田
仕事から逃げたい魔王様と禁忌に触れた人間達
「あ~めんどくせぇ......」
そうつぶやくのは魔王城の一室で寝そべっている魔王ダーナであった。
「なんで勇者なんかと闘わないといけないんだ......」
部下の情報によるとどうやら人族の国で勇者召喚がされたみたいだ。
しかしダーナはそれほど脅威に考えていなかった。
それよりも頭の中にあるのは「今日どうやって仕事をしないか」であった。
その昔、毎日毎日魔王国のために働いた勤勉な魔王はもはやもういない。
部下が何やら騒いでいるがもう知らない。
「めんどくせぇ~、さぼりてぇ~、あまやかされてぇ~、ねてぇ~」
自分の寝室で一人つぶやいていたがついに部下がしびれを切らしたのかドアを破り入ってきた。
「陛下! 勇者です! 勇者が魔王国の領土に入ってまいりました!!! 」
「知るか......お前らが何とかしろよ......俺は今まで散々働いたんだ......もういいだろ......」
「陛下! そんなことを言っている場合ではございません! 勇者ですぞ! 勇者! 」
「だから知らんて......他の武官にでもやらせろ。俺はもう働かないと決めたんだ」
陛下! という声がとてもうるさかった。
「もうその「陛下」をやめろ!!! 」
そう威圧したら部下は押し黙った。
「何万年と働き続けた俺を罵倒し追放した貴様らに「陛下」なんて呼ばれる筋合いなんてねぇ! 」
そういい魔素の塊をぶつけ強制的に部屋から排除した。
「そもそも勇者召喚がされたから俺が働かないといけないのか? 」
「......仕方ない......今日の怠惰のためだ......人間の国が一つ二つ潰れても構わんだろ......そもそも魔族とはいえ王の命を狙ったやつが悪い......」
そういいダーナは巨大で複雑な魔法陣を展開させ魔法の準備へと入った。
★
ミルチ聖国にて。
「聖王陛下これで聖国も安泰ですな」
「そうだな、ルッツ大司教」
そういいワインをテイスティングしながら味わっているのは聖王ことミスティル・セイクリッドとルッツ・ガイアックであった。
「勇者殿達には魔王を討伐していただければ我らの発言権がさらに増し各国に我らの教会も数多く置けるでしょう」
「魔王は世界の悪......。魔王と和平を結ぶなど言語道断。過去のこととはいえ彼の国にはきちんとその制裁を受けてもらいましょう」
フフフ......
「た、大変です! 聖王陛下!!! 」
聖国の聖騎士が突然ドアを開き中に入って来た。
「貴様! この部屋に無断で入るなど不敬にもほどがあるぞ! 」
そう顔を真っ赤にして怒鳴るが聖騎士はそれどころではなかった。
「も、申し訳ありません! しかし大変なのです! 本部の外をご覧ください!!! 」
まったくなんだ......そう思いミスティルとルッツは教会本部の外に出た。
「こ、これはなんだ......」
「ルッツ中枢卿......今は昼だったよな......」
「え、えぇ......しかし......」
外に出て動揺する二人。
周りの教会の者たちの中には「この世の終わりだ......」「我々は神の逆鱗にでも触れたのか......」などなど口々に話す者がいた。
そしてそこから降ってくるのは......
★
私たちは勇者だ。
いや正確にはついさっきまで学生だったが勇者召喚というもので召喚されたものだ。
最初は半信半疑だった。
魔王が存在し悪逆非道を行っているなんて言われて信じられるわけがないじゃないか。
中には「勇者召喚キター!!! 」とか「チートぱねぇ!!! 」なんて叫んでいる奴もいたが私はすぐさま疑った。
怪しすぎるのだ。
高すぎる報酬もそうだが魔王の強さも、その悪逆行為も何一つ教えられないまま魔王がいるというところに放り出されたんだから。
魔王がもしかしたら「人間の国の王様でした」なんてこともありうる。
慎重に行動しないと。
私たちはひとまず何グループかに分かれ行動した。
全滅するよりかはましだろうと考えたからだ。
などと考えていると横にいた友達が私を現実に戻した。
「ね、ねぇあかりちゃん、あ、あれ見て......」
「え? ......ええ??? 」
明るかった野営地は完全によるそのものとなっていた。
そして何か太陽があった場所から降り注いでいた。
★
「......アビス・サン・レイン」
「ふぅ、これでひとまず仕事はしなくてもいいだろう」
そういい最後の詠唱が終わった魔王ダーナは布団にもぐりこんだ。
★
「ぎぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ!!! 」「何よこれ!!! 」「太陽から......太陽から太陽が降って来る......ハハハ」「私たちは......ハハハ......私たちは......禁忌を......禁忌を犯してしまったのか......ハハハ」
聖国周辺の国々に降り注ぐ「黒き小さな太陽」が聖国周辺に降り注いでいた。
触れるものはすべてその生が終わるまで焼き尽くされ、無機物は腐食していく。
神の魔法の一つ「アビス・サン・レイン」。
神そのものか神の力を引き出せれるものにしか使用できない奇跡の魔法。
本来は「
最も「
「黒い太陽」が降り注ぐ阿鼻叫喚の地獄絵図の様子を見て聖王たちは心底後悔していた。
まさか魔王が反撃してくるとは思わなかった。
まさかあの怠惰な魔王がこちらに注意を向けるなんて思わなかった。
なぜ私はこんなことをしてしまったのだろう、と。
しかしもう遅い。
なぜなら「黒い太陽」は聖国にも降り注いでいるのだから。
★
「魔王陛下! 魔王陛下!!! 」
そういいドアを突き破ってきたのは前回とは違う魔族であった。
「......うるさい。俺は眠たいんだ......叫ぶな......」
「そのようなことをおっしゃらずに!国を見て下さい!」
「なんだよ、ったくうるさいなぁ~」
そういいながら廊下に出て魔王城の外を見た。
え?
何これ???
「魔王様万歳!!! 」「やっぱり魔王様がいるとこの国は安泰だ! 」「あのような方法で人間の国を一掃するなんて!!! 」などなど言っていた。
「......これどういうこと? 」
「何をおっしゃいますか! 先日魔王様が大魔法を用いて人間の国をいくつか滅ぼしたじゃないですか! それに感動し、やってきたものです!!! 」
「そして......」
「こちらが国民からの要望書です!!! 」
......
俺は魔王城から逃げようとした。
が、周囲に潜んでいた武官に腕を捕まれ......
「さぁ魔王様、お仕事です!!! 」
どうやら今日も魔王......いや魔神ダーナは仕事から逃げられないようである。
魔王様は逃げられない 蒼田 @souda0011
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