第8話 友達の定義
「藤原さん、その後坂川さんとはどうなったんですか?」
昼休みの食堂で、レオは久美に訊ねた。
「私がバスで女性の隣に座るようになってからは、あまり話し掛けてこなくなったけど、時々彼の方を見てみると、向こうも私のことを見てるのよね。それがなんか気持ち悪くて」
「たしか、坂川さんて結婚してるんですよね? ということは、もし藤原さんと男女の関係になったら、ダブル不倫ということになるんですね」
「ちょっと! 冗談でも、そんなこと言わないでよ! 向こうはどうか知らないけど、私はそんな気はまったくないんだから」
「はははっ! 冗談で言ったのに、そんなに本気で怒るなんて、よほど坂川さんのことが嫌いなんですね」
「あの人って、なんかなよなよしてるでしょ? 私、男らしい人がタイプだから、あの人にはなんの興味も湧かないのよ」
「藤原さんて、男らしい人がタイプなんですか? じゃあ、私なんかピッタリじゃないですか」
「うーん。レオの場合、見た目は男らしいんだけど、中身が伴ってないんだよね」
「ええっ! 自分では、中身も十分男らしいと思ってるんだけど」
「もし、いろんな女性に声を掛けるのが男らしいと思ってるのなら、大間違いよ。ちょっと言葉は古いけど、男らしいとは硬派な男性のことよ」
「硬派って、なんですか?」
「気軽に女性に声を掛けたりしない真面目な人のことよ」
「ええっ! それじゃ、私と真逆のタイプじゃないですか」
「そうよ。だから、レオはまったくタイプじゃないってこと」
「じゃあ、ご主人は硬派なんですか?」
「そうね。最初に声を掛けたのも私の方だしね」
「へえー。藤原さんて、見かけによらずイケイケなんですね」
「レオ、イケイケなんて言葉、よく知ってるわね。それより、レオの奥さんて、どんな人なの?」
「私のワイフは、とても心が優しくて、私のことを心から愛してくれてます」
「ふーん。そんな、よくできた奥さんがいるのに、なんでレオはいろんな女性に声を掛けてるの?」
「せっかく日本に来たんだから、多くの女性と友達になりたいんです。その方が生きてて張り合いがあるし」
「レオの場合、ちょっと偏り過ぎなのよ。まず男性の友達を多く作って、それから徐々に女性の友達を増やしていけば?」
「日本の男性は引っ込み思案の人が多くて、中々心を開いてくれないんですよ。なので、男性の友達を多く作るのは不可能です」
二人の話が行き詰まりの展開になった頃、お調子者の日高がニヤニヤしながら話し掛けてきた。
「やあ諸君、真剣な顔して、何の話をしてるんだい?」
「ああ、日高さん。今、友達の作り方について話してたんですけど、日高さんは友達は多いですか?」
「そうだな。まあ、軽く百人は超えてるだろうな」
「そんなにいるんですか! どうやったら、そんなに多くの友達を作れるか、私に教えてくれませんか?」
「そんなの簡単だよ。俺の場合、一回話をしただけで、もう友達にカウントしてるからな。はははっ!」
──ああ、この人に聞いたのが間違いだった。この人がまともに答えてくれるわけないんだから。
「……なるほど。それなら確かにたくさん友達ができそうですね。じゃあ、もしかして、私も日高さんの友達に含まれてるんですか?」
「ああ。前にレオがこの工場に派遣された時、俺に挨拶しただろ? その時からもう友達だよ。はははっ!」
「じゃあ、もう大分前から私たちは友達だったんですね」
「そういうことだ。レオも俺の方式を採用すれば、すぐにたくさんの友達を作れるぞ。はははっ!」
「そうですね。というか、その方式だと、私は既に多くの友達を作ってることになりますね」
「おおっ! 確かにそれは言えるな。レオは普段からいろんな女性に声を掛けてるからな。はははっ!」
「友達だったら、飲みに誘ってもなんの問題もないですよね? よーし。そうと分かれば、早速今日の仕事終わりに、片っ端から女友達に声を掛けてみます」
「その意気だよ。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるって言うから、一人くらいは誘いに乗ってくる者がいるかもしれないぞ。はははっ!」
「そうですね。是非そうなるよう、気合を入れて誘ってみます。はははっ!」
レオと日高のバカ話を、久美はずっと冷めた目で聞いていた。
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