第03話「ア"ア"ア"ア"――ッ! ごめんなさいッ、スライムの分際でズイてましたッ! 最大HPをアップさせる種です! これをお納めくださいッ!」
暗くジメジメとした洞窟で、あなたは生まれました。
あなたは食欲の導くまま、洞窟に生えていた白い苔を溶かして吸収します。
あなたの本能が知らせてきます。それは強い苦味でした。
あなたの小さな体に、大きな異変が起きます。
あなたの核を包むゼリー状の保護膜が溶けて、ズルズルと床に広がります。
あなたが捕食した白い苔には、強い毒が含まれていました。
単純な生命体のあなたは、毒素の刺激に反応して消化済みの毒苔を排出します。
大部分の毒素を除去しましたが、まだあなたの体は毒に侵されています。
あなたは徐々に弱っていく体で洞窟を這い、紫色の苔を見つけて捕食します。
紫色の苔を溶かして吸収すると、あなたを苦しめる毒素が中和されていきます。
あなたが捕食したのは、解毒作用のある苔でした。
原始的な生命体のあなたは、再び体に触れた白い苔を溶解して捕食します。
すると、前回と異なり白い苔の苦味が心地よく感じられます。
あなたは紫色の苔を捕食して『毒の体 LV.1』のアビリティーを獲得しました。
そのおかげで、白い苔の毒素を克服できたのです。
あなたは、体に触れた白い苔を食べ続けます。
毒のある白い苔を食べる他の生物は少ないので、あなたの食料は豊富にあります。
ひたすら白い苔を食べるあなたの体に変化が生じました。
半透明なゼリー状の体色が濁り、ミルクを溶かしたような乳白色になります。
あなたは『ポイズンスライム』に進化しました。
進化したあなたは、以前にも増して飢餓感を覚えるようになりました。
あなたは進化で強くなりましたが、常に消費する基礎代謝も増大したのです。
すでに苔だけでは食欲を満たすことはできません。
あなたは獲物を求める本能に従って、新たな場所へと移動していきます。
移動先のエリアは、スライムを餌とする捕食者が多くいる場所でした。
あなたが最初に捕食したのは、小さな虫たちでした。
その虫は動物の死骸を食べる洞窟の掃除屋で、毒蛇の死体に群がっていました。
あなたは虫を捕食し終えると、偶然にも毒蛇の死体に触れます。
あなたはそれを食料と認識して、虫に食い散らかされた毒蛇を消化吸収します。
すると、あなたは新しい能力を獲得するチャンスを感じました。
本能が知らせる天啓に従って、あなたは目も鼻もない体を進化させます。
あなたの核から神経節が伸びていき、ゼリー状の体に新しい器官が生成されます。
それは『ピット器官』という、ヘビ類が持つ赤外線を感知する器官でした。
スライムのあなたは、捕食対象の能力を獲得することで進化します。
あなたは、ピット器官で獲物の発する体温を感知できるようになりました。
以前のあなたに思考する力はなく、移動時に触れた獲物を捕食するだけでした。
毒蛇を捕食したあなたは、僅かな知性を獲得しました。
ピット器官で捉えた獲物の熱を頼りに、あなたは体を這わせます。
ただ移動して捕食するだけのあなたは、獲物を追いかける狩りを覚えたのです。
捕食効率が飛躍的に向上したあなたは、多くの小動物を捕食していきます。
あなたの体は、養分と水分を獲得するたびに大きくなります。
あなたの本能が訴えてきます。
有り余る養分を無駄にしないため、分裂か進化を選択すべき時が来たと。
あなたが選んだのは、進化でした。
あなたは、核を包むゼリー状の保護膜から水分だけを排出します。
あなたのブヨブヨの体が縮んで、密度を増した強靭なゲルに変貌していきます。
あなたのレベルが上がりました。
移動速度、攻撃力、防御力、最大HPが向上しました。
多くの小動物を捕食したあなたは、新たな獲物にターゲットを絞ります。
それはあなたよりも大きくて素早いモンスター、洞窟ウサギです。
あなたは、本能に導かれるまま洞窟の壁面を登って天井に張り付きます。
そして、洞窟ウサギが真下を通った瞬間に落下します。
あなたのゼリー状の保護膜は、洞窟ウサギに衝突した衝撃で広がります。
あなたの核を覆う保護膜には消化腺という器官が無数にあり、そこから分泌される消化液で獲物を消化します。
洞窟ウサギは暴れますが、あなたが持つ毒のアビリティーで動きは鈍重です。
毒で弱った洞窟ウサギの口元に、あなたは保護膜を伸ばして呼吸を妨害します。
数分間の格闘の末、洞窟ウサギは絶命しました。
あなたは、かつてない大きな獲物を獲得しました。
洞窟ウサギを消化吸収できれば、あなたはより強靭に進化できるでしょう。
あなたは、洞窟ウサギの亡骸の養分を余すことなく取り込もうとします。
消化を始めてから数時間ほどたった時、あなたは衝撃を受けました。
あなたの核には、粗末な木刀が突き立てられていました。
「やったー! 初めてモンスターを倒したぞ!」
あなたを倒したのは、冒険者と呼ばれる人間でした。
あなたは死にました。
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