第04話★想い続けたその果てに【ジュキ視点】
俺の父ちゃんと母ちゃんは魔界のナンバーワンとナンバーツーだったそうだ。ほかの二人の将軍とあわせて魔界四天王なんて呼ばれていたとか。でも聖女に魔力を浄化され、勇者の持つ伝説の聖剣の前には、二人ともなすすべがなかったのだ。俺はまだ二歳だったから何も覚えていない。
物心ついたとき俺は、魔界の戦災孤児が集められた孤児院で、英雄の子供として特別待遇を受けていた。だがそれがいけなかった。嫉妬した他のガキどもから、大人たちの見ていないところでいじめられるようになったのだ。ドワーフやオークの子供たちは幼児のうちから力が強く、まだ剣術も魔術も覚えていない俺には太刀打ちできなかった。
だが四天王の息子がいじめられていては格好がつかないということで、もうすぐ七歳になるころ、俺自身には何の功績もないのに
孤児院の院長が言うには、
「亡き魔王様の息子であるアンリ様がブルクハルト王国から爵位を受け、魔侯爵として魔界を治めることとなったが、人間の体制に組み込まれるのが気に入らない、弱腰政策だと批判する魔族がまだたくさんいる。人間と戦いたい勢力が、魔王様の魔力を受け継いだレモネッラ様をかつぎ上げる恐れがあるのだ。魔王城の中にさえ、アンリ様を倒して自分が魔王になろうともくろむやつらがいるのだから、
ということだった。当時の俺がどこまで理解できていたかは
院長はため息をついて、
「まあ当面は、いつでもレモネッラ様のおそばに仕え、彼女が寂しくないようにして差し上げることだ」
「お姫様のお友達になればいいんだね?」
一文で要約した俺に、確か院長は苦笑していたと思う。
初めてレモネッラ姫に会ったとき、俺はその美しさに息をのんだ。つややかな桃色の髪は手入れが行き届いていて、長いまつ毛に縁取られた愛くるしい瞳は好奇心に輝いて俺をみつめている。孤児院では見たこともない繊細なレースのドレスに身を包んで、彼女は優雅にほほ笑んでいた。こんなきれいな女の子、いままでの人生で会ったことも見たことなかった。
魔王城から出たことのない深窓の令嬢と孤児院育ちの俺が口をきけるってだけで、特別なことに思えた。
しかもレモはまだ五歳だというのにたくさん本を読んでいて、賢くてしっかりした女の子だった。その頃の俺といえば勉強嫌いで、自分の名前がようやく書ける程度だったのに。
「ねえジュキ、外の世界のお話もっとたくさん聞かせて。あたし本を読んでるよりジュキのお話聞いてる方が何倍も楽しいの」
レモはそう言って俺の腕にしがみついてきた。
身分の違いなんて深く考えていなかった子供の頃の俺が、レモを好きになるのにさして時間はかからなかった。
レモにふさわしい存在になりたい一心で、騎士として剣の修行にも励んだし、魔術もたくさん覚えた。嫌いな勉強も多少は頑張ったし、レモが、
「あたしジュキの声が大好きなの! もっといろんな歌が聴きたいわ」
と言えば作曲したり楽器を学んだりした。
「この間の夜――真ん中の月が満月だったときに聴かせてくれた曲が好きなの。あれもう一度歌ってよ」
などの注文に
だがどんなに努力しても俺はレモの、
「お城の外に出てみたい」
という願いを叶えてやれなかった。
「レモの命の火は、魔王城から出たら消えてしまう」
と、いつもアンリの兄貴は言っていた。
レモは成長するにつれて、
「あたしをお城から出さないためにあんなこと言って。大人なんて嘘つきだから信じられないわ」
と言うようになった。
俺はただ、閉じ込められたお姫様を救い出してあげたかった。美しく利口な彼女が、もっと広い世界で羽ばたくところを見たかった。
魔界の夜空にかかる三つの赤い月のうち二つが新月となる暗い夜、俺たちは手をつないで城のテラスから夜空へ舞い上がった。二人ともこの日のために準備して、風を操る術に精通していた。
魔王城の広い庭が終わり、堀に囲まれた城壁が見えてきた。
「ようやく外に出られるわ!」
レモが歓声を上げた次の瞬間、つないでいた手から突然力が抜けた。
「レモ!?」
俺は慌てて空中で彼女を抱きとめる。意識を失ったレモの風魔法は消滅していた。
すぐに引き返して魔王城の敷地内上空に戻ったが、レモは目をひらかない。そのとき下から、
「そこを飛んでいるのは何者だ!?」
と番兵の怒声が聞こえた。俺は逃げるかわりに彼らの元へ降り立った。
「レモネッラ姫の意識がないんだ!」
番兵が報告に走り、寝静まっていた魔王城は一気に騒然となった。
レモは俺から引き離され運ばれていった。
そして俺は―― 姫君の誘拐をはかったとして地下牢にぶちこまれた。
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