第2話 爆発
鉄の焼ける匂い。火に集る虫の様な人集り。天高く伸びる炎は、ただでさえ黒い雲を更に焦がさんばかり強く燃えていた。
無関係じゃない故の責任からか、現場に来た一橋の前では、あのオンボロ車が燃え盛っていた。何があったんだ、アイツはどこだ?と、白髪の男が居ないかを見渡すが見当たらなかった。既に逃げたのか死んだのだろう。
ズジャジャァァア!!「下がって下さい!!」「危ないですから!」
火達磨の車を囲む人集りの後ろで砂利に滑る音と叫び声を轟かせながら政府軍の装甲車が停止した。そこから間髪入れずに軍人が一斉に飛び出して人集りに割り込んで来た。
逃げる様に一橋は、人集りから抜け出そうとした。
軍人が通った跡を縫う様にして脱出は出来た一橋だが、一息着く間の無く、勢い余って転んでしまった。ズシャッ!と体を地面に汚しながら鉄パイプを突いて立ち上がる。
そこで一橋は、報酬としてもらった食料が無くなってる事に気付いた。
「え…? あ、あれ!? あーぁ…クソが」
どうやら、人集りから抜け出す時に落としたらしく。
一橋は、久しぶりに有り付けた
◆
“結局、何だったんだ…あの爆発は?”
武器庫の爆弾が爆発したのは、間違いないのは確かだろう。しかし、雨が降っていたから湿気も相まって、勝手に爆発するとは、思えなかった。
そんな事を考えながら一橋は、壁に手を付いて、器用に鉄パイプを使い
マンションの近くに街灯の光があるにも関わらず、コンクリートの階段は、夜の闇すら飲み込む程に暗くまるで冥界の入り口だ。吹き抜けたの窓から漏れる街灯の光を頼りに冷たい足音を響かせる。
「おぉ…来たか」嗄れた声が吹き抜けた火事跡の残る部屋の一室から聞こえた。
脚を止めて振り返れば壁に寄りかかるミイラの様な老人が立っていた。
身に覚えのある顔に一橋は「まだ生きてたの?」と呆れ口調で老人を鼻で笑った。一橋に寄りかかろうとする老人は「う、ぅすり……く、くく、薬を……くえ」と呂律の回らない口調で言った。
一橋は、ポケットから麻薬の束を見せると老人は「あははは」と目をギラ付かせながら笑った。この老人もすっかり変わってしまった。
元々、この世界の人とは思えない程に優しいかった。その優しさは、見た目からでも分かる程に
しかし、
一橋の憐れむ視線が老人に分かる筈も無く。薬を差し出さない一橋に痺れを切らしたらしく老人は「このクソガキがぁ!」と怒声を上げながら一橋の首に手を伸ばした。
「っ!?」ガャアン!!飛び掛かる老人に倒れる一橋。
その絵面は、
幸いな事に老人は衰弱してる、飛び掛かるだけで精一杯。一橋は、老人を突き放して手から離れた鉄パイプで這い寄る老人の顔を突いた。弾かれる老人。ゴッ…と、籠った衝撃が手に伝わる。
「いだい!!い、い!いだいよぉおお!かぁあちゃん!!」
顔を抑えて転げ回る老人は、まるで虐められた子供だ。情けない光景だが、滑稽とは思わなかった。一橋は「クソがよ…さっさと死ねよ」と老人の背中に唾を吐き捨てて自室に歩き出した。
しかし、角部屋の自室の前に着いた一橋は、ふと脳裏を過った疑問に思わず動きを止めた。…あの白髪の男から受け取った報酬は、政府の配給品だった。もし、白髪の男が政府の人間だったなら?────その疑問を軸にすればあの爆発とその場に男が居なかった事の説明がついてしまう。もし、あの白髪の男が武器庫を爆破させ逃げて、自分の事を
一橋は、ドアノブに手を掛けたその時、廊下から視線を感じた。振り返れば、廊下の向こうで一人の何かが此方を見ていた。青い目の少女だ。
「…ぁ? あっち行け。殺すぞ」
一橋の言葉に少女は「はぁぁ…」と溜め息を着いて廊下の暗がりに姿を溶かした。その様子を見届けた一橋は、ドアノブを握った。
一橋は「はぁぁぁ…」と深い溜め息をついて雨の降る空を見上げた。
自室のあるマンションの前に辿り着いたのだ。錆びと腐食塗れの外装の入り口の剥がれ落ちたネームプレート跡には、在りし日マンションの名前と思われる、ネストホープ・
一橋は、浜辺に上がるかの様にガスの波を蹴り上げながらマンションの階段を上がり始めた。
……結局、何だったんだ?あの爆発は?武器庫の爆弾が爆発したのは、間違いないのは確かだろう。しかし、雨が降っていたから湿気も相まって、勝手に爆発するとは、思えなかった。
使い慣れない頭でそんな事を考えながら一橋は、壁に手を付いて器用に鉄パイプを使い
起こしたら面倒なのは、考えなくても分かっていた一橋は、足音を立てない様に慎重に部屋を過ぎて、突き当りの角を曲がった。
……あの白髪の男から受け取った報酬は、政府の配給品だった。もし、白髪の男が政府の人間だったなら?────「っ…!」
ふと脳裏を過った疑問に角部屋の自室の前に着いた一橋、思わず動きを止めた。その疑問を軸にすればあの爆発とその場に男が居なかった事の説明がついてしまう。
もし、あの白髪の男が武器庫を爆破させ逃げて、自分の事を
「ぁあ…? ぁんだよ…これ?」と、生まれて初めて見る物体に一橋は、戸惑いながら小さく呟いた。好奇心より警戒心の方が強かった一橋は、息を殺して周りを見渡した。人気は無くどこかの部屋から聞こえる微かな寝息と外の雨の音に落ち着きを取り戻す。
一橋は、改めてリュックを確かめる為にガスマスクを外して目を擦りながら髪を搔き上げた。
雨の御蔭でガスの無い空気が吸える事を喜ぶ暇も無く一橋は、リュックを見下ろした。肩紐に文字の書かれた紙が貼ってある。『我々が回収に向かうまで保護しろ』と書かれているのだが、教養の無かった一橋にとってはただの模様、文字を文字と認識する事も読める筈も無い。しかし、食えないのは分かっていた。
それでも、食料を失った事に対する餓えからか、一橋は紙を無造作に破り取って紙の黒い筋を指で撫でて舐める。無味にも関わらず一橋は「まっず…」と言って唾を吐いた。
一橋は、何を考える訳でも無くリュックを引き摺りながら部屋に入った。
温もりを忘れた床に栄えるカビのフローリングに滑らぬ様に慎重に進むワンルーム。引き摺るリョックは、重くまるで中に人でも入ってるかの様だ。
「はぁはぁ。おもっいな…」バタン!
居間に着いた一橋は、肩紐から手を離して剥がれ掛けのフローリングの上にリュックを倒すと部屋、唯一の家具である棚から玩具のランプを取り出してゼンマイを回し、底部のスイッチを付けた。部屋に放たれる小さな光に天井が間接照明となり、影が分かる程度に部屋を仄かに照らした。
その灯りを頼りに一橋はリュックを開け始めた。
初めて見る固定器具に戸惑いつつも一橋は、難なくリュックの固定器具を外す事が出来た。残るは切込みの様なジッパー。
疲れに体をフラ付かせる一橋だったが、好奇心が恐怖心に変わる前に。と思い切ってジッパーを引っ張り開けた。
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