無題のうた

椰子草 奈那史

01

ああ、またやっちまったな。

はしゃぎ過ぎたようだ。

いったい何を期待していたっていうのか。

お前のことなんて、誰も気に留めてなんてないっていうのに。


お前にどれほどの価値があるというのか。

お前がいてもいなくても、地球は回る、日はまた昇る。

どれだけ足搔いて喚き散らしたところで、お前の言葉なんて誰の耳にも届かない。

誰の心を動かしもしない。


いい加減、自分がなにものかであろうとするのはやめてしまえよ。

なにものにもなれなかった自分を、取り繕うのはやめてしまえよ。

地の底から高い空を眺めても、お前は蝉にもなれはしないよ。


欲しいものは遥か遠くにあった。

手を伸ばしても届かないそれを、歯噛みして下を向いて折合いをつける。

いつもそんなことの繰り返しだった。

お前に与えられた役はこの世界の端役A。

台詞を口にしようとするなよ。

スポットライトなど求めるなよ。


ああ、またやっちまったな。

喋り過ぎたようだ。

いったい何を期待してるっていうのか。

結局お前のことなんて、誰も気に留めてなんてないっていうのに。


地球は回る、日はまた昇る。

少し眠って、また端役から始める。


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無題のうた 椰子草 奈那史 @yashikusa

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