それから、アツトとマキは、友達未満の関係になった。

2人は教室や通学路で顔を合わせても、話しもしなかった。

目が合うこともなかった。

その後、進路や受験に追われ、2人が付き合う事は無かった。


アツトとマキは、それぞれ別々の高校へと進学した。

高校を卒業すると、アツトは専門学校へ進み、地元の企業に就職した。

マキは、都内の大学へ進学し、そのまま都内の会社に就職した。


25歳になった時、アツトは会社の先輩から紹介された女性と結婚した。

しかし、どうしても、その女性を愛する事ができず、1年でその生活は終わりを迎えた。

マキは都内の会社に就職しても、独り暮らしを続けた。

将来を心配した母親が、幾つかのお見合い話を持って来たが、マキはその全てを断った。

「マキ、どうするの、このまま独りで生きていくつもりなの?」

マキの母親が、苛立ちの混じった言葉を投げかけた。

「うん、そうしようと思ってる。」

マキは悲しそうな顔でそう言った。


27歳になった時、マキの勤めていた会社が倒産した。

次の就職先の当ても無く、生活費の高い都内での生活が困難であるため、マキは田舎へ帰る事にした。

就職先を探している時、いつも前を通る神社に立ち寄った。

脇に置いてあるベンチの腰を下ろすと、ボーっと社を眺めていた。


少しして、そこへアツトが来た。

2人は、お互いの顔を見て、すぐに誰だか解った。

中学を卒業してから、1度も顔を合わせて居なかったが。

「マキ。。。」

「アツト。」

マキは涙を流しながら、アツトに駆け寄った。

アツトは、とても嬉しそうな顔で、マキを見つめていた。


「アツト、会いたかった。」

「マキ、ゴメンな、俺。。。」

アツトには、マキが流している涙の意味が解った。

マキには、アツトが謝った意味が解った。


ベンチに腰を下ろすと、2人は、今までの事を話した。

高校生活のこと、社会人になってからのことなどを。

アツトはマキに、女性と結婚したものの上手く行かず離婚した事を話した。

マキは目に涙を浮かべたまま、嬉しそうに話を聞いていた。

「マキは、結婚しなかったのか?」

「うん、ぼくは、ずっとアツトを待ってた。」

マキはそう言うと、また涙を流した。

「でも、どうして?」

「だって、あの時、アツトは『さよなら』を言わなかったから。」

そう言うと、マキはアツトに抱き着いた。

アツトも、マキをギュっと抱きしめると、深くキスをした。


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別れを告げられず 木津根小 @foxcat73082

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