3

マキは、確かに昨日、男子とキスをした。

昨日、マキは男子に付き合って欲しいと言われたが、他に好きな人が居るからと断った。

「そんなヤツ捨てて、俺と付き合ってくれよ。

なあ、良いだろ。」

そう言われ、しつこく迫られた。


しかし、マキは頑なに断った。

それはアツトに対する思いと、自身の軽率な行動への後悔が混じっていた。

「解ったよ。

じゃあ、最後に、1度だけで良いから、キスしてくれないか?」

男子は、どうしてもマキを口説くことができないと解ると、少し寂しそうな顔でそう言った。

マキはキスぐらいなら、それで男子の気が済むのであれば、と思いキスしたのだ。

それをアツトに見られていた。


「アツト、冷静に聞いて欲しいんだ。」

マキはそう言うと、キスした事を、全てアツトに話した。

アツトは、ジッとマキを見つめながら、静かにマキの話を聞いていた。

その姿を見て、マキは、アツトの誤解が解けたと思った。


「マキ、俺、マキの事が好きだ。

マキを信頼している。

けど、ダメなんだ。

俺の心が、どうしても、マキを信じられなくなっているんだ。」

そう言うと、アツトは涙を流した。

「ぼくもアツトが好きだよ。

だから、ぼくの事を、信じて欲しい。

決して、アツトを裏切らないから。」

マキはそう言って、アツトの手を握った。

しかし、アツトは、その手を振りほどいた。


「俺も、マキのこと、信じたい。

信じて抱きしめたい。

でも、心は、マキを信じられなくなっているんだ。

どうしても。。。」

アツトは泣きながら言った。

「アツト。。。」

そう言うと、マキも涙を流した。


「俺のオヤジは、不倫して他に女を作って、母親と俺を捨てて出て行った。

だから、そんな事をする人間を、俺は許せないんだ。

今まで、ずっと、そう思って生きて来た。

それが正しいと思って。」

アツトはジッとマキを見ながら言った。

涙が止まらなかった。

そして、無言のまま、教室を出て行った。

教室に残ったマキも、涙が止まらなかった。


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