第5話「帰還」

「お帰りなさい。テオ君」

 冒険者ギルド支部の事務所に戻った俺はいきなりセシルさんに抱きしめられた。

「せ、セシルさん?」

「もう。あんなに言ったのに。こんなに無茶ばっかりして」

「いや、あの、どうしてそれを?」

 セシルさんの腕の中で俺は混乱する。

 俺は確かに大ピンチに陥ったところをバズのパーティに救われた俺だけど、そのまま真っ直ぐ戻ってきたのでセシルさんがそれを知っているのは不自然だ。

 体は返り血だらけにはなっているがこれはいつものことだ。

 バズのパーティの魔術師のヒルダは通信系の魔術は使えない。

「どうしてそれをって」

 言葉を発しながらセシルさんは俺から顔を離した。

「見ればわかるわよ。その顔。引き返し損ねてピンチになって絶体絶命のところにバズ達のパーティが間に会って助かったって顔していたわよ」

 なんて的確に状況理解されているんだ。

 と、言うより、セシルさん。何だかいつもと口調が違う気がする。

「あ、ごめんなさい。テオさん」

 セシルさんがいつもの口調に戻った。

 俺から少し距離を取って口に手を当てて少し咳き込みながら呼吸を整えた。

「テオさん。任務お疲れさまでした」

「はい。ただいま。セシルさん」

 俺もいつも通りに戻る。

「義姉さん。俺達も依頼達成ですね」

「はい。任務お疲れさまでした。バズさん」

 バズとヒルダが俺の後ろから顔を出した。

「それではテオさん。結果を出してください」

「はい」

 ギルド登録カードを出す。

 これで魔獣の討伐数がわかる。

「えっ。スライム51匹。ゴブリン122匹。オーク17匹。オークロード2匹。こんなに?」

 セシルさんは俺の戦果に驚いていた。

「セシルさん。これは想像していなかったんですか?」

 さっき俺の状況をピンポイントで把握したセシルさんだ。

 このくらいでは驚かないと思ったのだが。

「想像以上です。テオさんだからきっと討伐数は凄いとは思ってはいたのですが。ソロでこの戦果。やっぱりテオさんの戦闘力はずば抜けていますね」

「あ、ありがとうございます」

 セシルさんに褒められると素直に嬉しくなる。

「ああ、魔術師保護法なんてアホな法律無ければテオもうちのパーティに入ってもらいたいのにな」

 バズがそう言うが、今の発言は結構マズイ。

「ちょっと。王国の法律に文句付けないでよ。憲兵がいたら捕まるわよ」

 バズの妻のヒルダがバズを叱る。

 王国とその周辺国の悪法である魔術師保護法。みんなおかしいと思ってはいるが、実際に口に出すと下手すると反逆罪で捕まってしまうのだ。

「でも本当に。テオさんがいてくれると力強いわ。テオさん入ると私抜けないといけないけど」

 ヒルダがちょっと悲しそうにそんなことを言うがいらない心配だ。

「いや、俺とヒルダが入れ替わったら攻撃力上がっても魔術0になるから。」

 バズとヒルダのパーティはC級。

 魔術師保護法がなければ是非入れてもらいたいパーティだった。

 ちなみにバズとヒルダは俺より年上だ。

 俺が十八歳。バズが二十歳でヒルダが十九歳。

 でも俺の方が冒険者として先輩だしランクも上なのでなんとなく敬意をもって接してくれている。

「テオさん。今日はゆっくりお休みください。……今後はこんな無茶はくれぐれも行わないようにお願いしますよ」

 セシルさんは穏やかながら少し凄味を感じるような声で俺にそう告げた。

「はい。わかりました。すみませんでした。ご心配おかけしました」

 セシルさんに頭を下げて、その後でバズとヒルダにお礼を言ってから俺はギルド支部を後にした。

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