第6話「新しい居場所」

 ソロ活動に失敗してバズ達に助けられてから数日が経過した。

「それでは戦闘訓練を始める」

「「「「「はい」」」」」

 俺はギルド支部で冒険者志望者の少年達を相手に教鞭を振るっていた。

 今までの俺の経験談を語った。

 魔獣との遭遇からの対応方法までをわかりやすく説明する。

 失敗談としてこの前のソロ活動の失敗の話なんかもした。

 そして外に出て戦闘訓練。

 俺は魔力による身体強化が使えないので感覚的なものを教えるのは別の冒険者がやっていた。

 俺は戦闘訓練の教師役だ。

「あそこに立っているテオに一撃でも入れられたら合格だ」

 別の教師役の冒険者達の一人が俺を指差す。

「魔術師だからって侮るなよ。そいつはギルドでもトップクラスの戦闘力だ」

 なんか必要以上に煽られているのは気のせいだろうか。

「一人一人で行くな。囲んでフルボッコにしろ。いいな」

 俺って教師だよな。ただの標的扱いされているような気がしてきた。

「あの教師面した脳筋野郎をぶったおせ」

 あっ。俺教師じゃなかったようだ。

 今日一緒だった教師役の二人。俺に恨みでもあるのだろうか。

「「「「「よろしくお願いします」」」」」

 声を揃えて木の剣を構えた少年達が俺に襲いかかって来る。

 フルボッコにされないように頑張って戦った。


          *


「それはお前。名前覚えてないからじゃないか?」

 俺は書類を片付けながら同じく書類を片づけていたバズと話していた。

 冒険者には書類作成など事務作業もある。今更だけど事務作業全部やっていた俺が抜けてエルト達大丈夫だろうか。

 いや、今はあいつらのことを気にしている時ではない。

 バズが変な事を言ってきた。しっかり返答しないと

「名前を覚えてないから目の敵にされたっていうことか?そこはしょうがないだろう。そんなことだけで目の敵にされていたらやってられないだろう?」

 俺はバズに正論をぶつけた。

 最初に名前を聞かなかった俺も悪いが名乗りもせずに名前も知らない事を怨まれるなんておかしいだろう

「いや、普通覚えているもんだぞ」

 バズはそう言うが、それは無茶ってもんだ。

「だって初対面だぞ。名前を知っているわけないだろう。」

「いや、二人とも結構な古株だぞ。俺達の先輩だ」

 どうやら俺のせいだった。

「だったら仕方がないか」

 俺は素直に自分の非を認めてこの件を忘れる事にした。

 他人の顔と名前を覚えるのって難しい。

 貴族の紋章だったら全部覚えているのに。何故か人の顔は覚えるのは苦手だった。

 こうして、若手の育成に加えてギルドの雑用をこなしたりしていた。

 最近はずっとギルド支部の中にいてギルドの活動を手伝っている俺だがエルト達とは合う時間は格段に減った。なんだったらほとんど会っていない。

 同じ場所を拠点にしている以上エルトのパーティと合う危険はあるのだから。

 セシルさんが気を使ってエルト達と合わない様にしてくれた。ヒルダに言われるまで気付かなかったが。

 セシルさんはできる人だ。非公式での受付嬢ランキングで上位をキープしているのも納得だ。

「セシルさん。お疲れ様です」

 仕事終わりのセシルさんに声をかける。

「お疲れ様です。テオさん。よければこのあと一緒に食事でも行きませんか?」

「はい。喜んで」

 このようにセシルさんと食事にいく日もある。

 結構充実した日々だ。

 起きて仕事してセシルさんやバズ達と食事して飲んで騒いで夜を過ごす。

 そしてまた目を覚ます。

「朝か」

 体に疲労感は無い。疲れも無い。

 スムーズに体を起こせる。

 でもなんか違う気がする。

 壁に立てかけてある杖を見る。

 魔獣討伐をやっていないわけではない。

 この前の失敗を忘れないようにちょっとでも危なそうならすぐ引き返すようにしている。おかげであれ以来ピンチになった事は無い。金もそこそこ溜まる。

 理想的な生活を送っているというのに。

 なんか満たされないように感じるのだった。

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