41,運命共同体
「ここら辺が俺の一押し市街ダ」
「知ってます? こういうの誘拐って言うんですよ」
「人聞きが悪いナ。ちょっと親睦を深めようとしただけダ」
「犯人はそうやって言い逃れするんです! 私、帰りますから!」
「そっちは港だゾ」
「…………」
道がわからん。
ジトリとゲパルを睨むと、したり顔の男前。あぁ、ムカつく。
ステラは苛立ちげに息を吐いた。
「カルバン先生にもっと怒られるじゃないですか……」
「帰ったら一緒に謝ってやるヨ」
「絶対ですよ? 日が暮れるまで魔法聖書一巻から音読されられて、呪文の書き取り百回ずつした後魔法道具磨きさせられようものなら、全部半分こですからね」
「ううン……。全部学生の罰だナ……」
あのカルバンなら、例えお互い社会人同士でもペナルティを課してくるだろう。
そしてステラは条件反射で「先生の鬼‼」と叫んで着手するのだ。
「今から嫌なことを考えていても時間が勿体ないゾ」
「すっごい前向き」
「だってそうだロ。
そんなことより、行きたい所は無いのカ? 俺が一緒なラ、一般人が入れないところも入れるゾ」
「行きたいところ……」
スピカの眼を調べるなら、何処だろうか。
図書館……あ、アレルギーの頭痛が。
「どうしタ? 頭が痛むのか?」
「いえ……お気になさらず……。
行きたいところというか、スピカの眼について知りたいんですけど、何処にいけばわかりますかね? ほら、皆さんがよく仰っているので、気になったというか」
「アー……。散々言われてんもんナァ」
急に覗き込まれ、肩が跳ねた。危ねぇ、正拳突きをかますところだった。
一歩下がり、手が出ないようにゲパルから遠ざかる。
「そこまで言われちゃ気になるのも仕方ないよナ。
いいゼ! スピカ様のことを知りたいなら、博物館ダ!」
「博物館?」
それなら既にラナと見学済みだ。王族についての歴史なら飾られていたが、スピカについての資料は置いていなかったと記憶している。
見落としたか?
ステラの考えを見抜いているかのように、ゲパルは口元を吊り上げた。
「あそこには特にスピカ様について何も触れるような物は無かっタ。
そう言いたいんだろウ?」
「なんでわかったんですか⁉」
「あんタ、顔に出しすぎダ。
……いいゼ、この後仲良く怒られる間柄ダ。教えてやるからついてこイ」
この男についていけば、何かわかるのだろうか。
足はゲパルに向かうも、気持ちは後ろにある宮殿に引かれる。
「(すぐ戻ればいいよね……?)」
心の中でご立腹であろうカルバンとエドガーに謝罪を。
そしてフェリシスに付き従って何処かに行ってしまったレオナルドに、舌を出してやった。
「ここダ」
連れて来られたのは、この国に到着して最初の頃にラナとやってきた博物館だ。
装飾の綺麗な柱も、雨桶の役割を持つガーゴイルの綿密な造りも褒め称えた後である。
ステラは博物館を見上げ、唸る。
「……うーん……。やっぱりここは一通り見てるんですけど……」
「けどナ、あんたがまだ見ていない場所があル」
「何を持ってそんな堂々と宣言できるんですか」
受付嬢に声をかけるゲパルの三つ編みの編み目を数えていると、ふとした違和感を感じた。
「ん?」
「手続き終わったゼ。どうかしたカ?」
「やー……なんにも……」
気のせいだろうか、誰かに見られている気がしたが。
後ろを振り返り、左右も確認するが誰もいない。
思い過ごしだ、そういうことにしておこう。
「行くゾ。部屋を開けてもらウ」
「部屋?」
なんのことだろうか。
いつの間にか、ゲパルの隣に白衣を着た眼鏡の男が立っていた。
格好からして学芸員だろう。
「本日は私が案内させていただきます。こちらへどうぞ」
「よろしくナ」
「よろしくお願いします」
その手には小さな鍵が光っていた。
よくわからないが、この建物の中にスピカの眼に関することがあるのだ。
二つの背中を追いかける以外、選択肢は用意されていない。
「見たら驚くゾー。心しておケ!」
「そんなに上げて大丈夫なんですか?」
「期待して貰って大丈夫ですよ。今から行き所は、大抵の人が驚きますから」
ステラは二人の男に囲まれ、博物館の中に姿を消した。
「…………」
柱の影から覗く人物に、気付くことはない。
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