31,歓迎会 7

「なんと、愚かな……」


 苦々しく吐き出すのはウメボシだ。


 ステラの見よう見まねの技を止めようと走り出したが、間に合わなかったのだ。

 ガサンの足元で主人を見上げるが、爆発が起こったかのような砂煙でその姿は隠されていた。


 尚、遠巻きに見守っていた王国騎士団の面々にも対象なりとも被害で出ていた。

 ひっくり返っている者も居れば、尻餅をついて呆然としている者も居る。

 ジーベックトやゲパルですら膝を付いていた。


 そんな中、ガザンだけは涼しい顔で一歩も動かず、天気の分からない空を見上げているのだ。なんという体幹の強さだろう。


「お嬢ちゃん……あんた……」


 ようやく煙が晴れてきた。


 しかし上空にいるステラの表情は、ガザン達からはよく見えない。

 ただわかるのは、金砕棒がステラの真下に突き刺さっているということ。


 杭のように地表に深く突き刺さり、そこを基点として大きな裂け目が大地に走っていた。

 どれだけ馬鹿力を出したんだか。


 さて、ここでステラの顔を拡大してみよう。

 ほら、その宝石のような瞳。何やら文字が浮かんでいるようだ。




「 ヤ バ 」


 油汗が滝のように流れ出て、顔色も悪い。

 当然である、なんせ他所様の土地を叩き割ったのだから。


「へっっっ……たくそじゃのぉ‼」

「ふぐぅっ!」


 ガザンの言葉が胸に深く突き刺さる。事実なので仕方がないのだが。


 すると、地上で何かが白い煙を立てた。

 砂埃とはまた別のものだ。


 その煙は動揺するステラの横に飛んでくる。


「このバカ者‼」

「ギャー‼」


 それは九尾の姿になったウメボシだった。


 予告なく本来の姿になるのは吃驚するので止めて欲しいが、今はそんな文句を言っている場合じゃない。

 しかし迫力があるのは本当のこと。思わず主のステラが叫ぶくらいだ。


「己のノーコンっぷりを忘れたとは言わせんぞ!

 魔法学校の体力測定でも、槍投げや砲丸投げはいつも測定不能だっただろう‼」

「だ、だって、あの時から私だって成長したし……!」

「見よ‼ これの何処が成長したというのだ‼」


 そう、ステラはノーコンだった。

 近距離で軽く物投げる位なら難なくこなすが、遠距離だとどうも力の加減がわからないようだ。


「だって見てたでしょ⁉ シングラーレ‼ めちゃくちゃ格好よかったじゃん‼ 私も出来ると思ったんだよ‼」

「お主のその自信は一体何処から湧いてくるのだ⁉」


 ウメボシは、必死に言い訳を羅列する主人の服を咥えて、空気を蹴った。

 目指すは地上。ガザンの元だ。


「意外や意外。まさかあんたみたいな元気の塊がノーコンじゃったとは。人は見かけによらんもんじゃ」

「いやぁ、お恥ずかしい限りで……」

「まぁ怪我人が出んかったことが一番じゃ。

 しっかしえらく深く打ち込んでくれたのぉ!」

「すいません! 掘り起こします!」


 なんなら地表に出ているのは持ち手だけだ。

 その光景に、ステラは自分がやらかした事の大きさを痛感する。


「(この地割れ、直すのにいくらかかるのかな……)」

「えらいこっちゃ。中で釘が引っかかっておるわい」


 まだ戦いの最中だと言うのに、大きすぎるアクシデントで緊張感が無くなってしまったようだ。


 二人がかりで金砕棒を引き摺り出す様子を見て、ウメボシは大きく鼻を鳴らす。


「ステラよ、金砕棒の無いオジジを倒したとして、お主の白星にカウントされないのではないか?」

「え、何急に」

「三つ編み小僧よ‼ 戦いの言祝ぎとやら、小生が預かるぞ!」

「あ、あア」


 ステラは悟った。


 こいつ、面倒くさくなったな。


 ジト目で見上げるも、その視線に気付かれることはない。

 ゲパルが承諾した直後に、ウメボシは勝ち誇ったように叫ぶ。


「双方腕を上げい! これより種目はジャンケンとする!」

「やだよ⁉ 流石に展開が雑すぎるって‼」


 眼を向いて抗議するも、吊り目に睨み下ろされるだけだ。


「何を言うか、ジャンケンを馬鹿にしてはならんぞ。

 相手の思考を読み、揺さぶりを掛ける心理戦でもあるのだ。筋肉の動きを読み、相手が何を出すか裏の裏をかく。至高の戦いなのだぞ!」

「子豚ちゃんすごいのぉー。九尾の狐だったんじゃなぁ」

「聞けいオジジ‼」


 現場はもう戦いどころじゃない。

 ガザンも集中力が切れており、ステラの闘気も薄れている。


「ガザン様、よろしいんですか?」

「面白そうじゃし、ええんちゃうか?

 それに残念なことにタイムリミットも迫っておる」


 ガザンの言わんとすることはわかっていた。

 少しだけ顎を動かし、視線を彷徨わせる。


 詩文達を取り囲んでいるのは、王国騎士団だけじゃない。

 この騒ぎを聞きつけた宮殿内の人間が、そこらかしこにいるのだ。


「もしかして今の攻撃で?」

「ずいぶんと派手じゃったからの。恐らくエドガーももう少ししたらここに来るじゃろう。

 バレるのも時間の問題じゃ」

「いやっ……絶対怒られるじゃないですか……!」

「その時は仲良くお揃いのたんこぶをこさえようぞ」

「そんなお揃い! 謹んで辞退します!」


 ステラは咄嗟に拳を出した。

 ここはウメボシの案に大人しく従った方が良さそうだ。

 でないとエドガーにバレて怒られる。そんな未来、誰もがわかりきっている。というか、もうバレていると思うが。


 かといってこのまま勝負をうやむやにして退場というのも気持ち悪い。


「こんな決着なんて不本意ですが……‼」

「しょうがなかろうて。


 ほれゆくぞ。最初はグー!」

「じゃーんけーん……‼」




「二人共。何をやってるのかな?」



 ラスボスが現れた。


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