47,一筋縄ではいかない
「いつまでこっちにいるんだ?」
「国王と王妃の挨拶したらすぐに帰るよ。ルカに直接、君達の安否聞きたかっただけだから」
「暇なんだな」
「レオナルド! 師範は私達のことを心配して駆け付けてくれたんだよ⁉」
「いいんだよステラ。ルカのことで虫の居所が悪いみたいだ」
寂しげに微笑むエドガーと目が合った。
「けど帰ったらイライザにも怒られるだろうなぁ。護衛を撒いて飛び出してきたから」
「それかなりマズくないですか?」
夕日エフェクトが補正され、エドガーの愁いが深みを増した。
これはエドガーファンであるリタに、是非とも見せてあげたいショットである。
「ニーナは怒ると恐いからな」
「ニーナ、さん?」
「お前も卒業式で見たことがあるだろう。エドガーの隣で護衛をしていた、ピンクの髪の女性だ」
「あの日に焼けた人?」
一度しか面識は無いものの、音のない足音や気配の消し方、それに視線の探る鋭さは只者でないと感じた覚えがある。
ニーナの名前が出ると、エドガーは儚げに笑った。
「そう、そのニーナだよ」
「イライザさんもそうですけど、セレスタンって女性の方が前線に立つ機会が多いんですね。羨ましい!」
「確かにドルネアートに比べたら、王国騎士団の女性の比率は高めかな。ニーナみたいに女性護衛枠が増えているし、社会進出は目覚ましいよ」
「ドルネアートとセレスタンは隣国とは言え、文化が異なることも多い。そっちでは女性は強者であればあるほど美人とされてきた時代があったな」
「そうそう。その名残もあるんだろうね、ドルネアートやネブライに比べたら武器を持つ女性は多いよ。それに古の求婚方法も……」
「あ! 薔薇園!」
レオナルドも無礼だが、ステラもどっこいどっこいである。
庭に差し掛かかると、良い香りが鼻を掠めたのだ。
夕焼けに包まれた仲、何本も植えられた薔薇園は実に見事な物だった。
「ここ、前馬車で通った庭だよね?」
「帰国帰国パーティーの時か」
「そう! やっぱり綺麗だなぁ」
馬車の中からでも綺麗なのはわかっていたが、いざ目の前にすると引き寄せられてしまう。
流石王族お抱えの庭師だ。
「……じゃ、俺達は行く」
「わかった。多分の朝には発つから、会えて良かったよ」
「そんな! まだ手合わせもしていないのに⁉」
「体力おばけは黙って寝ろ」
キャンキャンと喚くステラの首根っこを掴み、レオナルドは深く息を吐いた。
「どこまで元気なんだ、お前は……」
「ははは……またセレスタンに遊びにおいで。その時に是非修行の成果を見せてね」
「しーはーんー‼」
引き摺られるように、エドガーから離される。まるでレオナルドが悪者のようだ。
そんな二人を微笑みながら、エドガーはただ手を振るだけだった。
「そうむくれるな」
「だって! 久しぶりに師範に会えたのに!」
「まぁ会おうと思って会える相手じゃないのは確かだが……」
ステラの首元を離し、ようやく引き摺るのをやめる。
自分の足で立ち上がるものの、その顔は膨れっ面だ。
「拗ねていないで早く行くぞ。行き付けの宿が近くにある。今ならなんとか入れてもらえる筈だ」
「拗ねてるの、師範が原因なだけじゃないよ」
風が吹き、薔薇園から花弁が二人に降り注ぐ。
幻想的な風景だが、今のステラにはとても不釣り合いだ。
「ステラにはすまなかったと思っている」
「レオナルドのことが大好きなルカ皇太子が、変な虫を追い払うために今回の無理難題を押し付けたのは百歩譲って……許さんけど」
「それでいいと思うぞ」
「銀髪のオネエさんも一先ず置いておくとして」
「それは置いておくな、警察として殺人未遂で指名手配かけろ」
「それは追々。
それより‼」
自分より少し先を歩くレオナルドを、引き留めるように声を張り上げた。
振り返る彼の顔色に疲れが見えるが、それよりなによりもっと気になることがある。
「王族を抜けるって、何⁉」
「そのままの意味だ」
レオナルドは、皇子らしくない。
普通に野営もするし、屋台で食べ歩きもする。
料理だってステラより上手で、コーヒーを淹れさせればそこら辺のカフェより香り高い。
皇子らしくないことは、昔から知っているつもりだったが本当に辞めようとするとは思っていなかったのだ。
「王族から籍を抜くなんて、よっぽどの理由がなきゃ罷り通らないでしょ。
そんなに大きな悩みがあったの? 私でよかったら相談に乗るよ」
「そうか、なら聞いてくれるか」
もちろん、と言いかけて言葉を引っ込めた。
何故なら、レオナルドが大股でこちらにやってきたからだ。
「俺は、ステラが好きだ」
「…………………………なんて?」
突発性難聴になったか? 医者は何処だ、カモンエルミラ。
「何度でも言う。俺はお前のことが好きだ。
月下美人の前でお前に言った言葉に、嘘偽りも無い。
あの時、あのままステラと一緒になれるならそれでもいいと思って引き留めた。けれど、ちゃんと言わないと伝わらないと思ったから今言う。
一緒になるため、俺は王族を抜ける」
体温が上がっていく。これは現実?
苦し紛れに出てきた言葉を、ステラは絞り出す。
「うそ、そんなはず、ない……」
「全く……人が寝ている間に告白するなんて、勇往邁進を貫いている割に姑息な手だな」
「起きてたのっ⁉」
「好きな女を目の前に寝れるか。ほら、さっさとお前も言え」
「すきなおんな……」
呆然と目を見開いていると、頬にレオナルドの手が添えられた。
熱い。これ、現実だ。
そして――
「どうする? 早く言わないと、」
唇が触れそうになった。
――――その瞬間。
「~~~~~~~~ッ‼ まだダメー‼」
「ゴフゥッ‼」
ステラの掌底が、レオナルドの顎に決まった。
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