20,卒業試験 2
「来るぞ‼」
「うん‼」
空に舞い上がった二人がバラけた。
それを見たカルバンは、大きく肩を振りかぶる。
「そらァ‼」
この人はこんなに腹から声を出すことが出来たのか。
会場のカルバンを知る生徒は、全員思っただろう。
放たれた縄はまるで弾丸のように、レオナルドに向かって飛んでいく。
「フォティア・スパエラ‼ (火球)」
レオナルドが呪文を唱えると、飛んできた縄が火に包まれ、勢いがなくなった。
そのまま燃えて地面に落ちて行く。
「流石だレオナルド、縄に掛かっている魔法以上の魔力で打ち消したか。けどいつまで続くかなー?」
「ちっ……!」
小さい舌打ちをして上空へ舞い上がった。
「レオナルド!」
「気を付けろ、思っている以上に魔力を練り込んでいる!」
数え切れないくらいの縄が、カルバンの魔法によって宙に解き放たれた。
「これは避けられるかー⁉」
何故かとても楽しそうだ。
大量の縄がレオナルドに襲いかかる。
「私は⁉」
一方のステラは、箒に跨がっているだけだ。螺旋に飛ぶレオナルドを遠くから眺めることしかできない。
「あっ‼」
どうしたものかとステラが見守っていると、一本の縄がレオナルドの死角から迫っているのが見えた。
迷うこと無く人差し指を指して、呪文を唱える。
「パラエキ・ピート‼ (沈め)」
「っぶね……!」
間一髪のところで魔法は間に合った。縄はレオナルドに触れる直前で、勢いよく地面に叩きつけられる。
しかしステラが安心するのも、束の間の出来事だった。
「右へ飛べ‼」
レオナルドの叫びに、疑いなんてなく右へ大きく逸れた。
下から襲ってきた縄と、すれ違ったのは一瞬。
その瞬きの間を、ステラは見逃さなかった。
「レオナルド‼ この縄、電気を帯びてる‼」
「なんだと⁉」
「ステラは視力がいいなぁ。そうだ、これは俺の雷魔法を掛けてある特製の縄だ! 捕まったらひとたまりもないぞー‼」
「先生の鬼ー‼」
「そうだ、今の俺は鬼だ‼」
レオナルドを追いかけていた縄が半分に別れ、ステラまで追い立てる。
「ぎゃ――‼」
「くそっ‼」
しかもこの縄、性格が悪い。
レオナルドとステラを衝突させようと、進路を誘導してくるのだ。
だがそこはステラの瞳がフォローを入れてくれる。
「(これじゃあ、残り時間保たない……!)」
奥歯を噛み締めた。ここで負けるわけにはいかないのだ。
レオナルドから距離を置くと、箒から手を離して腰に忍ばせておいた〝物〟を掴んだ。
「就職するまで取っておくつもりだったけど‼」
箒を一回転させて、追いかけてくる縄に向き合った。
「そんな事言ってらんないよね‼」
その両腕に握られていたのはトンファーだった。
縄を燃やしながら、レオナルドが生徒代表として叫ぶ。
「お前はまたマニアックな武器を‼」
「見てなよ‼」
突くのも叩くのも、用途によって変えることが出来るトンファー。
そのトンファーを大きく振りかぶった。
「こなくそ――――‼」
この緊張する試験中の、間抜けな掛け声ぶっちぎりの一位だ。
ブーメランのように、縄へトンファーを投げる。すると案の定、縄はトンファーに絡め取られて半分以上が撃沈した。
「はーっはっはっは‼ どうだ‼」
「笑い方が完全に悪役だぞー」
正義の味方を目指す者として最もふさわしくない高笑いだ。
もう片方のトンファーを右手に持ち替え、レオナルドに向かって箒を飛ばす。
「頭伏せて‼」
「絶対当てるなよ⁉」
フルスイングでトンファーをぶん投げた。
寸前のところで頭を下げたレオナルドには当たらず、すぐそこまで迫っていた縄を絡め取り地面へ落下する。
「一分切ってる、逃げ切れるよ!」
「あぁ!」
「出来るか?」
空気がピリッと痛い。
明らかに感じるのは、敵意だ。
二人の全身から、汗が噴き出す。
「これが最後だ。逃げてみろ‼」
カルバンから放たれた縄は、ここからでも目視が出来るくらい、電気を帯びている。
今まで追ってきた縄の倍はある量だ。
咄嗟に二人は上へ飛ぶ。
「絶対にぶつからないから、好きに飛んで‼」
「あぁ‼」
「ここからが楽しいよなぁ‼」
縄が獲物を狩る猛獣のように、空中を駆ける。
箒をコントロールするのに必死で魔法を掛ける余裕なんて、一切ない。
「あと三十秒だ‼」
ここまで長い三十秒が、未だかつてあっただろうか。
逃げ切れれば二人とも合格できる。勝利は目前まで迫っている。
レオナルドのカウントダウンに苛立ちながら箒を方向転換させると、正面に縄が迫っていた。
「え」
目が熱くなった。二秒後、自分は前後から縄に雁字搦めにされる。
そして箒から落ちて行く未来。
考えるより先に、身体が動いていた。
「っだぁ――‼」
そんな未来は真っ平ごめんだ。
ステラの逃げ道は一つしかなかった。
箒から立ち上がり、体重を軽くして上に跳び跳ねた。
二秒後、目の予言通りに箒と縄が衝突事故を起こした。
「間一髪……!」
その光景を見て背筋が凍った。
しかし、それで事は終わらない。
「そこだ‼」
時間は残り十秒切っている。
宙ぶらりんになっているステラを、カルバンは見逃しはしなかった。
「あ……!」
対抗魔法も間に合わないし、何処にも逃げ場が無い。
重力を戻して多少動けても、投げられた縄からは逃げ切れないだろう。
「(絶対痛い‼)」
ステラの目が恐怖に染まった。
痛みを覚悟して、きつく目を瞑る。
「――――ステラッ‼」
誰かが自分の名前を叫んだ。
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