第23話 手紙
夜、アイネとルルは鳩にもらった魔法陣の描かれた紙を眺めていた。二人は同じ寮の部屋に住んでいるため、夜は大抵同じ部屋にいる。
貴族のアイネは上品にベッドに座って、田舎出のルルはだらしなくベッドに仰向けになって話をする。
「これ、なんだと思う? 嫌な予感しかしないんだけど」
クラス担任であるヨハンの鳩から渡された紙。普段面倒くさがって仕事をしない教師が生徒に伝えるとなれば自然と内容はわかってくる。
しかも、つい先日に教師にサボり権なんてものを渡してしまったのだ。内容は考えるまでもない。
だが、内容がほとんど分かっているというのに、アイネもルルも怪訝な顔だった。
「どうして魔法陣なんです? いくら魔法陣の好きなせんせーとはいえ、書いた方が早いと思うですが」
「休みの内容だけじゃないってことでしょ? 内容はわからないけど」
紙にはそれぞれクラスの生徒の名前が書いてあった。アイネはアイネと書かれた紙を持ち、ルルはルルと書かれた紙を持っている。
ただの授業の休みを伝えるだけなら必要のないことだ。何かあるのは間違いないだろう。
「どうする?」
アイネは一応念のためルルに尋ねた。どうするというのは魔法陣を起動するのかどうかである。
「大丈夫だと思うですよ。幾らせんせーでも酷いことはしてこないと思うです」
「そう……よね。流石にあの先生でもこんな訳の分からないことで私達に反撃とかしてこない……よね」
一応魔法陣を読んでみたがアイネにもルルにも何の魔法陣なのかわからなかった。図書館に行くなどして調べればわかるのかもしれないが、今は夜なので調べに行くには遅すぎる。
「まあ、使ってみるしかないか」
アイネは勘弁して魔法陣に手をかけた。
ルルもアイネに倣って魔法陣に手を伸ばす。
「じゃあ、いくわ」
二人は魔法陣に魔力を込めた。
…………
情報が流れてくる。
教師のヨハンが伝えたかった、送りたかった情報が頭の中に染み込んできた。
明日の授業が休みだという通達。
クラスメートには下手な隠し事をしないほうが良いという警告。
魔法の勉強はその内に役に立つというヨハンの持論。
そして、先日失敗した複数人による魔法陣の改善案。
魔法陣による情報伝達は数秒で終わった。
アイネは横にゴロンと転がって、頭を枕の上におく。
「…………あの教師、思ったより私達のこと考えてたんだ」
「……意外、ではないですよ」
「そう? でもそうね。確かにルルの言う通りそんなに意外じゃないわ」
怠惰で性格が悪くて、ずる休みをするような悪い教師。だが、魔法陣に関して多くの知識を有していて、使用人の少女には並々ならぬ信頼を寄せられていて、授業中にさらっととんでもない情報を吐いて。
「せんせーは良い人だと思うですよ」
「良い人……かはわからないけど、少なくとも私達のクラスには必要な人かもしれないわ」
「どうするですか?」
明日の授業が休みなのはわかった。失敗した魔法陣の使い方が分かった。
明日の予定ががっつり空いて、その代わりに試したいことができた。
「決まってるじゃない。今からクラスの皆にメッセージ送るわ」
「ルルも手伝うですよ」
空いた時間にクラスメートで失敗した魔法陣の練習をしよう。ヨハンの描いた魔法陣にはそれぞれ名前があった。生徒一人一人に別々のレクチャーになっているはずだ。
あの瞬間、一目見ただけで生徒の特長を把握し、その対策を思いついていたのだろう。考えられない所業だが、それができたから魔法陣を生徒たちに配っている。
戦慄せざるを得ない。
ヨハンとは何者なのか、と二人は、否、クラスの生徒たちは思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます