第15話 魔法学院概要
俺にしては珍しく学院の仕組みに興味が湧いた。
このアレミラス学院が何を目的に設立されたのか。生徒は何を目的に入学してきているのか。入学してきた生徒がこの学院で何を学ぶのか。
それから担当教師の役割など俺に関係することを調べることにした。
幸い、学院に関する書物は学院内の図書館にあるようだった。
生徒から挑まれた実践の授業を終えた後、俺は図書館で学院について調べることにした。
学院の内部情報は学院である程度の地位を持っているものしか見られないらしく、俺は受付で手続きを行って、専用の部屋に通された。
狭い個室に俺が指定した本が何冊か積まれている。本は持ち出し厳禁なのでここで読めということだろう。ちなみに写すことも禁じられている。相当厳重だ。
だが、教師に閲覧権があることからしてさほど重要な情報ではないだろう。
俺は取り敢えず学院の創立にかかわる本を手に取った。本を開くと、魔法陣が自然と浮かびあがってきた。
その魔法陣は読んだ人の記録を取っているようだ。
「この魔法陣は、学院長のだな」
ぱらぱらとページをめくる。重要な情報は大して書かれていないように見えるが、少しだけ妙な記述があった。
アレミラス魔法学院は今から約300年前に魔法の平和利用を想って設立された。創業者はセルネアという女性。写真に写る姿はまるで子供である。
俺はその姿に見覚えがあった。そう、現在の学院長である。
その次の代の学院長はジーレンス。その次の代はゴルディ。と続いている。今代の学院長は45代目で名前はメイと言うらしい。初代以外の写真は無かったため二代目以降の姿は不明だ。
「見た目からして今の学院長は初代の学院長と同じだろうな」
極々薄い可能性ではあるがたまたま同じ姿をしていたと言うこともあるだろう。だが、俺の見立てでは初代のセルネアという学院長と今の45代目の学院長は同一人物だ。
一度は学院から手を引いたが、何らかの事情があって学院に戻ってきたのだろう。
そして何らかの事情のために昔馴染みだった俺を呼んだ。
だが一つ不明瞭な点がある。
「300年の間、こいつは何をしてたんだ? わざわざ学院長に戻らないとできないような厄介事があるのなら300年の間に手を打てば良い。何で今更俺を呼んでまで」
正直なところ俺と学院長は仲が良くない。その仲の悪さはどうしようもなく変えられないもので、かつ致命的なものだ。俺が学院長の名前を知らないのもこの仲の悪さに原因があると言って良い。
そんな俺に手を借りるとなると、それはほぼほぼ敗北を意味していると言っても過言ではない。
「…………考えても埒が明かないな。多分この本を全部読めば何となくは掴めるんだろうが、俺の午後休も無限にあるわけではないし」
俺は仕方なく別の本に手を出すことにした。どうせ考えても核心までたどり着くことは無い。せいぜいが可能性を複数に絞れるぐらいだ。
大した報酬でもない情報のためにわざわざ読み解くまでの気力はなかった。
「他の本は、魔法陣で細工はされてないみたいだな。ってことはこれだけが異質だったのか」
俺はそれから時間一杯を使ってアレミラス魔法学院の教師の仕事内容や学院の仕組み、生徒の勉強内容について調べた。
まとめるとこんな感じだ。
アレミラス魔法学院は魔法の平和的利用を志している。生徒たちは学院に入学すると魔法の基礎である第一階魔法から第五階魔法を学び、一人前の魔導士となることを目的とする。これは基礎的な部分で全ての生徒が強制的に学ばされる。できなかったら留年だ。
その基礎的な魔法を学びつつ、魔法陣や魔道具などの魔法の発展に欠かせない分野の勉強をする。これらが無事に修めることができれば卒業である。
その際、さらに上の魔法を学びたいと思った生徒はその後も学院に在籍することができる。ただし、第六階魔法を学ぶ生徒は課題として魔法による平和的活動をしなければならない。
学院には時期や実力によってクラス分けがなされる。クラスにはそれぞれ担任教師が就き、第一階魔法から第五階魔法は担任教師が授業を行う。担任教師はクラスメートの学院生活や卒業後の進路相談も積極的に行わなければならない。
他に、『担当教師は講師のみの教師とは異なり、緊急時には学院のために働く義務を負う』。
「あ?」
どうやらこれが学院長の狙いのようだ。
ニートの俺を引っ張り出してきて、教師をさせ、裏で俺を強制労働させるように誘導する。
…………やはり天使は嫌な奴だ。直ぐに俺を殺そうとしてくる。
などと俺が学院長に殺意を抱いていると、部屋のドアがノックされた。
「私だ」
学院長の声である。俺は居留守を使った。
「私だ。居るのは分かっている。大人しくしろ」
俺は居留守を使った。
しかし、ドアは勝手に開いた。子供のような学院長がトコトコと部屋に不法侵入してくる。
「あのなぁ、おまえがここに来るのは受付から聞いてるんだ。一々隠そうとするな。面倒くさい」
学院長が不服そうに入ってくると問答無用に俺の前に座った。
テーブルの上に置いてある本を取って、魔法陣の内容を確認する。
「なんだ、大して読んでないじゃないか。てっきりこの本を手配したのならもっと読んでいると思っていたが」
「興味なかったからな。俺は学院の仕組みを知りたくて来ただけで、お前のことなんて興味ないんだ」
俺の言葉を受けて、学院長があからさまに不機嫌にテーブルをコツコツと指で叩く。
舌打ちも聞こえてきた。
「私の期待を返せ。お前が少しはやる気になったかと期待してきたのに、何だこの仕打ちは。もっと私にも気を使え。私の気持ちも考えろ。お前のその無駄に有能な脳みそで私のことも考慮しろ」
「あーはいはい。その褒めてるのか貶してるのかわからん言い方はわかったから、何をしに来たのかさっさと言ってくれ。今日はもう疲れたんだよ。帰って寝たい」
数日前まで一日0ターン制だった俺の体力は少なく、身体はすぐに休憩を欲する。
「お前のクラスについてだ。気になるだろ?」
学院長が話したそうにしている。先程散々に言われた俺は正直学院長の思い通りになりたくはなかったが、普通に知りたかったので渋々首を縦に振った。
学院長がニッと笑みを浮かべる。うざい。
「あのクラスには化け物を数人おいていてな、特別なクラスなんだ。それ以外の奴も魔法に関して頭のネジが飛んだ奴しかいない。唯一例外があるとしたらあの貴族の娘だな。クラスを纏める上で一番良さそうなのを入れたが、それが思ったよりも上手く行ってるようだ」
頭のネジが飛んでる……か。なるほどね。そりゃあ、教師に魔法ぶっ放してくるわけだ。
まあ、魔導士として優秀な奴はどこか頭がおかしいのが多いからな。そういうクラス編成にするのは正しいのかもしれない。
だが、疑問がある。
「特別なクラスなのはわかった。だったら、どうして教師が度々入れ替わる羽目になってるんだ? 教師は優秀な奴を担当させて、同じ奴にやらせた方が良いだろ」
「は? お前は話を聞いていたか? あのクラスは特別優秀な奴らで構成されてる。そこを担当する教師は当然優秀な奴だ。そして、優秀な魔導士というのは決まって頭がおかしい。お前みたいにな。だから直ぐに辞めるんだ。まあ、私がいつ辞めても良いと言ってるのもあるがな」
思ったよりも糞みたいな理屈だった。だが、俺は納得した。
優秀な魔導士を育成するにあたって、常識を持つ者は足かせになる。本当に優秀な魔導士を作りたいのなら、教師は頭のネジがぶっ飛んでるアホであることが望ましいのだ。
とはいえ、学院長自らがそれを押してるのはいかがなものか。学院のモットーにあった魔法の平和的利用は何処に行った。生徒の頭をぶっ飛んでるように教育させることが平和的利用か? 否。そんなことはあるまい。
俺は学院長の教育方針に異を唱えたかったが、面倒なので辞めた。
「そりゃあ、あいつも自信無くすわな」
「あいつ?」
「お前が言った貴族の娘だよ。周りの人が才能あって自分には才能が無いって落ち込んでたんだ。でも実際はお前があいつの周りを優秀な生徒で固めてただけだった。このクラスの唯一の被害者だよ」
本当に酷い話である。俺みたいなゴミがのけ者にされて不当な扱いを受けるならまだしも、アイネは真面目でひたむきな人間だ。
こんな人の心のない
俺は少し嫌な気分になって、帰ることにした。
「まあ、俺が聞きたいことは聞けたから良かったよ。次からはクラス編成を少しは考えることだな」
「なんだ、お前にしてはえらく他人に関心があるんだな。場でも湧いたか?」
「さあな。でも、お前ら天使よりは俺は人間に近いと思ってるさ」
サナも最近、俺への扱いが妙なことになっている。まるで俺を痛めつけることで何らかの興奮を得ているようだ。
悪魔の俺にはさっぱり理解できないが、それは俺が悪魔だからではないだろう。きっと人間であっても、サナの感情を理解することはできない。
こんなのが天使と呼ばれ、かつて悪魔と戦っていたのだから、変な話である。
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