第16話 ダンジョン説明
その日の授業は普段のものと比べて少し趣の変わったものだった。
教卓に着き、俺は今朝ポストに入っていた手紙を読み上げる。手紙の送り主は学院だ。
つまるところ、俺の授業への指示である。
内容はこんな感じだ。
アレミラス魔法学院の行事の一つにダンジョン探索がある。担任教師には特別授業として担任クラスの引率をしなければならない。
生徒にはダンジョンについてしっかりと説明を行い、ダンジョン探索を教師が居なくてもできる程度まで指導する。後にクラスごとにダンジョン探索の成果を確認し、それによってクラスごとの順位付けを行うため、精進するよう。
大体そんなことが書いてあった。
「てなわけだ。お前等はまだダンジョンに入ったことが無いらしいな。これを機にダンジョンに慣れてもらう」
俺の割と丁寧な説明に生徒たちは驚いていた。
「ヨハンせんせー、もしかして改心したですか?」
昨日、俺と生徒が戦った件だろう。
「残念ながら改心はしてないな。だが、少しぐらいは真面目になっても良いかとは思った気がする」
アイネは疑念を帯びた眼で見てくる。
「ほんとに? 先生はちょっとのことで気分が変わるから明日にはまたダメダメになってそうなんだけど」
「さあな。その辺はおれにもわからん。ただ今日は珍しくやる気があるぞ。ダンジョンの説明をやっても良いと思ってる。どうする? 聞くか?」
「いやあんた教師なんだけら聞くか? じゃなくて説明してよ」
文句の多い奴だ。まあ良い。今日の俺は気分が良い。少しぐらいの無礼は許してやらんこともない。
言って俺は教科書を開いた。…………そして閉じた。
「あー、面倒だから俺の頭の中の情報を適当に喋るけど良いよな?」
「ほらもう来たー。なんなのよこいつ。やる気あるだのなんだの言って、少し壁があるとすぐこうなる。どうせ教科書に書いてあることを纏めるのが面倒だったんでしょ?」
まったく仰る通りです。アイネさんは俺のことをよく理解してらっしゃる。
俺はサナに続く理解者の誕生に歓喜した。教卓に頬を付けて、冷たい感触に酔いしれる。
そのままダンジョンについての説明を始めた。
「ダンジョンってのはダンジョンマスターと呼ばれるダンジョンの核によって作られた地下洞窟のことだ。地下洞窟とはいっても、中に入ってみると城だの遺跡だのだったりするから洞窟とは限らないだけど、小規模なものは大体が地下洞窟だから便宜上そう言ってる。つーか俺がそう言ってる。教科書は違うかもしれん」
どうやら教科書では別の呼ばれ方をしているようだった。メガネが予習していたのかわざわざ教えてくれる。ダンジョンは『地下迷宮』の区分になるらしい。
俺は説明を続ける。
「次はダンジョンマスターについてだ。こいつもダンジョンによって姿や存在が違ってる。一番多いのは魔物のパターンだな。次が土地全体だ。あとは、人や悪魔や天使がやってたりってのもあるな。このパターンはやっかいで──」
バンッと机が叩かれた。
「何よそれ! そんなの知らないんだけど!」
大げさだな。知らない程度でそんなに騒ぐことか?
「そりゃあお前らは今日初めてダンジョンについて学んでるんだろ? じゃあ知らなくても当然だろ。そんなに大声出してどうした?」
俺がアイネを茶化すように受け流すと、アイネだけでなく、他の生徒までも騒ぎ始めた。
学級崩壊が来てしまったかもしれない。俺は取り敢えず一通り説明を終わらせてからにしようと思い、魔法で生徒たちを黙らせた。
「それで、ダンジョンマスターは色んなパターンがあるんだが、それによってダンジョンの特色もかなり変わってくる。管理してる目的が違うからな。魔物が管理してるタイプだと基本的には捕食を目的にしてる。土地だとその周辺の豊穣だな。人とかの知能を持ってる奴だと、まあ、まちまちだ。これってのを確定させるのは難しい」
つまり、ダンジョンを攻略するにあたって最初にやることはダンジョンのタイプを見抜くことだ。
その目的が分かればダンジョンのやりたいことがわかるわけだから、攻略の方法も必然的に見えてくる。
上手く行けばダンジョンと探索者の利害の一致を見つけて、互いに損をしないような結果を引っ張ってくることもできるわけだ。
ビジネスの取引みたいにな。
俺が適当に説明していると、声を封じられた生徒たちが暴動を起こしていた。学院長の言う通り遠慮なく魔法を使ってくる。
無視して続けた。
「あと、覚えておいた方が良いのはダンジョンには稀にとんでもない化け物がいることだな。これは大きなダンジョンだけの話だからお前等には関係ないかもしれないけど、一応頭に入れといてくれ。大きなダンジョンの運営にはそれだけ多くの魔力を必要とする。その魔力の源がとんでもない化け物だったりする。まあ、大抵は特別な宝石だったり土地の力だったりするんだが、稀にそういうことがあるから気を付けとけ」
一通り説明しきった俺は生徒たちにかけた魔法を解いた。が、うるさかったのですぐまた魔法をかけなおした。
授業が終わるまではこのままかなぁ。
「ああ、そうだ。ダンジョン探索の特別授業の日程は既にお前等にも情報が行ってるだろうから、しっかり準備しておくように。ダンジョンは危険だから準備は怠るなよ」
今日も授業を終えて、俺はホクホク顔で帰宅した。
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