第13話 生徒vs教師
俺という人物を語るとき、真っ先に挙げられる特徴は「怠惰」である。それは俺が元ニートだったというのが大きな要因ではあるが、ニートになる前からも俺は怠惰だったため、ニートだから怠惰というのは少し違う。
俺は生まれながらにして怠惰だったし、怠惰だったからニートになったのだ。
そして、「怠惰」以外にも俺の特徴としてもう一つ挙げられるものがある。それが「魔法」だ。
俺を構成する二大要素に関して言うなら、俺を超える者はほとんどいないと言っていい。
場所はアレミラス魔法学院、アホ程広い実技場の屋内施設の一つ。そこに俺と俺の担任しているクラスの生徒が集まっていた。
俺は学院の仕組みを知らなかったのだが、こいつらが言うにはどうやら俺はこのクラスの担任教師らしい。
担任教師とは講義だけをする講師とは異なり、担当のクラスを持ち、そのクラスの生徒が学院生活を満足に送れるようにサポートする役割を持っている。
そのため、俺もその内担任教師としての授業以外の仕事をしないといけないらしい。
面倒な話だ。そんなもの各自でやれば良いのにと思う。
俺が知らなかったからとはいえ、今更仕事内容を知ると新しい仕事が追加されたような気がする。
とはいえ、俺の気分は割と悪くなかった。
なんせ、クラスの奴らとの実践形式の決闘に勝てば俺は三回の授業ごとに一回サボれる権利を貰えるからだ。
これがあれば俺への負担は一気に軽くなる。
気分が上がるのも必然であり、当然である。
「さて、みんな集まってるよな」
俺はクラスの人数が何人いるのか知らないためメガネに人数確認をさせた。
全員揃っているらしい。
条件を確認する。
「お前らの要件は俺にやる気を出させることだったよな。だがいいのか? お前らがいくら俺に魔法を浴びせようが俺がお前らに熱心にまともな授業をしようと思うとは限らないぞ」
俺は最低限の授業はしっかりするつもりだし、今も最低限の授業はできていると思っている。だが、生徒たちが要求しているのは最低限ではなく、せめて普通レベルの授業内容だ。
しかし、最低限を超える授業をするかどうかは完全に俺のやる気や善意、責任感に依存しており、いくら上司などに訴えても授業内容が改善されることはない。なんせ、最低限をこなしていれば文句を言う権利はないからだ。
なので、生徒たちはこうして自分たちをアピールして俺の善意や責任感に訴えようと考えてきた。
普通に考えたら仕事に不真面目な教師一人程度にそんな面倒なことを、と思うだろう。が、どうやら俺にはそれだけの面倒をするほどの価値があるとこいつらは思っているらしい。
更に言うなら、情に訴えかければ真面目に授業をしてくれるとも思っているようだ。
「まあ、お前等が何を考えてるかはこの際どうでも良いとして、肝心なのは俺がサボる権利の方だ。これは全員に約束してもらうからな」
俺が勝てばサボる権利を得ることができ、負けても特に何もない。強いて言えばサボる権利を得られないことだろうか。
どの道悪いことにはならない。
……子供相手だと思うと少し良心が痛むな。いや、戦う前から情にほだされてどうする。負けても俺は何も失わない。それでこいつらは了承してる。
なら俺がとやかく思うのは筋違いだ。
「わかってるわ。先生の怠惰はここ数日で良く分かってるつもりだから、サボるぐらい認めてあげる。でも、クラス全員と戦って一人で勝てると思ってるの?」
「余裕だな。全員と言っても二十人ぐらいだろ? お前ら程度の実力ならその十倍いても問題にはならん。良い機会だからその辺も教えてやるよ。俺は教師だからな」
さて、了解もとれたし早速始めるか。
ここは実技場に複数ある屋内施設の一つ。ここは魔法学院であるため当然実技となると魔法だ。魔法によって設備が破壊されないような対策は十分に取られている。多少大げさな魔法を使っても問題はない。
生徒たちが杖を構える。
俺は杖の代わりに手袋を付けた。
「魔導士用の手袋だ。知ってる奴もいるだろうが、使ってる奴は……いないのか。手の甲に魔法陣が描いてあって、杖よりも素早く魔法を発動することができる。まあ、杖みたいにいくつもの魔法を臨機応変に使うってのはできないのがネックになるんだが、これはこれで悪くないぞ」
生徒たちが俺を囲うように陣を組む。
「じゃあ、始めようか」
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