勇者イリスさまに騎士の誓いを
道、違うくネ?
がらがらという車輪の音がダイレクトに尻に伝わってくる。
勇者のために用立てられた馬車といっても貴族が使用するような四頭立ての大型馬車などではなく、駆け出しの行商人が使うような一頭立てのおんぼろな小型馬車だ。かろうじて幌がついていて、雨露は凌げるレベルであるといえよう。
「なあ、勇者サンよ。本当にこっちでいいのか?」
御者台に座っている二人の冒険者然とした男達のうち、小柄な方が荷台にいるイリスに肩越しに話しかけてきた。王宮が用立てた三人の旅の仲間のうちの一人、ジャンだ。
盗賊のジャン、戦士のダラー、斥候のリンという三人はイリスの仲間として雇われる前から度々組んでいる冒険者の三人組らしい。
薄汚れた革鎧に手入れの行き届いていない武器類、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべた表情とどう考えても堅気には見えないが、馬車の操り方すらわからない現状で贅沢は言っていられない。
「ん? ああ。こっちで間違いない」
荷台の中でイリスは地図を見ながら答える。
「いやでもサ、あたい達はあんたをカールトンに連れて行けって言われてるんだヨ。道、違うくネ?」
イリスの隣でやたら身体をくっつけて同じ地図をのぞいてくる乳の大きな女が斥候のリンだ。森エルフらしくないツンツンの髪型とケバケバの化粧がどことなくパンクロッカーを思わせる。
王都を出た一行はカールトンに向かう北向きの街道に出てすぐ、左方向――西へと進路を向けた。
王国では都市間の街道はよく整備されており、街道沿いに宿場町も数多くあるが、現代日本のようにバイパスなどの裏道があるというわけではない。
つまり、西に行くということはカールトンに向かうのではなく――
「このまま西に進んで聖都ペイントンへ向かう。カールトンに行くのはそのあとだ」
「は?」
御者台のジャンが声を荒げて荷台に移動してきた。小柄ではあるががっしりとした筋肉質という、実にドワーフらしい体型のジャンはイリスに息が吹きかかるくらいの近さまで顔を寄せて言い放つ。
「俺達はカールトンにお前を連れて行くのが仕事だってのが聞こえなかったのか? 成功報酬だからお前を連れて行くのが遅れれば遅れるほど効率が悪くなるんだよ。言ってることわかるか、クソガキ?」
大人の男に迫られてもイリスは全く動じない。これくらいオンラインで対戦すれば日常茶飯事だ。イリスは吹きかけられた酒臭い息を払うように手を振ると、
「お前達の都合など知ったことじゃねー。オレは戦いに勝つために考えてるんだ。脳筋のお前達と違ってな」
「んだと、テメエ!」
隣に座っていたリンが激高してイリスの胸ぐらを掴む。線が細い森エルフのリンだったが、小柄なイリスをいとも簡単に持ち上げた。つかまれた胸ぐらがぎりぎりとイリスを締め付ける。
「お前、何が目的だ?」
一方、リーダー格のジャンはリンと比べて幾分冷静なようだった。エルフに持ち上げられる勇者に静かに聞く。
「仲間を増やす」
無表情で答える幼女の答えにドワーフの眉がぴくりと動いた。
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