勇者殿、よくぞいらした
「勇者殿、よくぞいらした」
謁見の間でイリスは国王と向き合っていた。
謁見の間は先ほどの控え室を倍くらい大きく、豪勢にしたような部屋で、周囲にずらりと騎士やら偉そうな老人やらが並んでいた。それらの人々が見つめる中、イリスはひとりで王の前まで歩いて行ったのだ。
「あのような幼子が勇者とな?」「あれで大丈夫なのか?」などという声が聞こえてきたが無視した。そういうのはお約束のフレーバーだと思えば気にもならない。
「イリスです」
イリスは素っ気なく名乗った。謁見の間で一段高くなっている上座の椅子に腰掛ける国王を前にして膝をつくわけでも、頭を下げるわけでもない。
王様などという偉い人を前にどうすればいいのかなど知らなかったし、事前にそれでいいとカーンに言われていたので、礼儀については特に意識しなかった。
「うむ、イリス殿か。聞いているかと思うが、現在わが国は滅亡の危機に瀕している。東から攻めてくる悪魔の軍勢を倒し、わが国を救ってくれ」
玉座の肘掛けにもたれる国王は金髪碧眼の壮年の男性だった。覇気はなく、どことなく目はうつろだ。度重なる戦乱に心を痛めているというより、何もかもに飽きているという印象を持った。
「はい。まあ、できる限りやってみます」
気のない答えだったが、国王はそれを聞いているのかいないのか、眉ひとつ変えることなく小さく頷いて、
「そうか。期待しておるぞ」
テンプレかよ。今時の低予算ゲームでさえもう少しこちらのセリフにあわせて気の利いたこと言うぞと思ったが、さすがにそれを口に出すようなことはしなかった。
謁見はそれで終わり、国王の脇に控えていた王子らしき人物に促されて謁見の間を後にした。ここに来るまでに歩く時間の方が王と話している時間よりも長かった。
「続いては能力測定になります」
謁見の間の外で待っていたカーン達に案内されて向かったのはイリスが最初にこの世界に降り立ったあのグラウンド――演習場だ。先ほどと違ってずいぶん人の数が少ないのは、大方の勇者達の測定が終わっているからだろう。
「なるほど。あの第1勇者はここで能力測定の最中だったってわけか」
「はい、その節は大変失礼をしました。第1勇者ヴィルヘルム様にはこちらから説明をして、ご理解いただきましたので」
あの大男――今となってはイリスが小さいだけだったけだということはわかる――はヴィルヘルムという名前なのか。そんなことを考えていたが、カーンが再び青い顔で汗を拭き始めたので面倒くさくなり、「それはもういい」と手を振った。
「で、オレは何をすればいい?」
言って、演習場を見渡した。演習場では先ほどと同じく、何人かの勇者達が剣を振り回したり手のひらから炎を出したりしていた。
「こちらでは勇者様の初期能力や適性などを調べさせていただきます。魔法の属性や得意な武器種、防具の種類などですね」
「ふーん」
素っ気なく答えたが、顔のニヤつきは押さえ切れていなかった。それはもちろん、今演習場でテストしている勇者達の姿を見ているからである。
巨大な剣を軽々と振り回したり、二刀を自在に使いこなしたり、炎や氷や雷の魔法を操ったり、これぞまさにファンタジー世界の醍醐味である。
あの神を名乗る老人はこれはゲームではないと言っていたが、この光景のどこがゲームではないのか。ゲーム以外の何物でもない。
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