最終目標は魔王を討伐ってことでいいか?

「本っっ当に申し訳ありませんでした!」


 白いローブに身を包んだ役人とおぼしき人物が頭を地面に擦りつけんばかりの勢いで謝ってきた。


 第1勇者と呼ばれたあの男から解放されたイリスは広い部屋に通された。

 脚の長い絨毯に豪奢な内装、大きな窓からは柔らかな日の光が差し込んでくる。ゲームでよく見る貴族の部屋といった感じだ。


 それもそのはず。ここは王都ルーシェスの王城内部にある貴賓室。今は勇者控え室として使われているとのことだ。勇者は隣の部屋で召喚されたあと、この部屋に通されてもろもろの事情説明を受け、勇者として王との謁見を行うらしい。


「召喚の部屋で儀式を行ったあと、勇者様が現れないので原因を究明していたのですが、まさか召喚は成功したのに別の場所に現れていたとは想定外でした」


 青いハンカチでダラダラ流れ落ちる汗を拭きつつ申し訳なさそうに事情説明をしている二十代後半くらいの冴えないこの男はカーン・リョウと名乗った。第999勇者であるイリスの担当文官であるということだ。


「第999勇者ねぇ……」

 さっきの勇者が第1勇者と呼ばれていた。つまり、今この城には九百九十九人もの勇者がいるということになる。


「クローズドベータならまあ妥当な人数か」


 クローズドベータとはオンラインゲームが正式にリリースされる前に少人数を招待してサーバの部下の具合を確認したり、不具合がないかどうか調べるテストのことだ。イリスも何度か参加したことがある。


「では、おほん。改めて王国の置かれている状況についてお話しさせていただきます」

 謝罪モードがおわったのか、カーンは手元の書類に目を落としながら説明を始めた。先ほどとは異なり顔に血の気が戻り、幾分表情も和らいでいる。


「大陸の西半分を領土に持つ我が王国は、北部のギガディウス山脈で東の帝国と領を接しており――」


 カーンの説明は先ほど神から聞いた話とあまり変わらなかった。東の魔族が支配する帝国からの侵略に悩まされている。辺境軍を失い劣勢の王国は勇者を召喚してそれに対抗しようとしているとのことだ。


「要するに、最終目標は魔王を討伐ってことでいいか?」


「はい、はい。そうです。第999勇者様におかれましては、このあと国王陛下に謁見をいただき、能力測定を行ったあと装備品の支給を行わせていただきます」


 カーンがハンカチで汗を拭きつつ答えた。どうやら、汗を拭くしぐさは焦っていたからではなく彼のクセのようなものらしい。


 コンコン、と部屋の扉がノックされたかと思うと、大きくて重そうな扉が開き、カーンと同じ服を着た、彼よりも少し若い文官が入ってきた。

 若い文官はカーンに何か耳打ちをすると、イリスの方に一礼してカーンの背後に控えた。


「謁見の準備が整ったようです。こちらへ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る