面白くてな。お前のあまりにもテンプレ通りの行動に

「まあいいか。人形相手で飽きてきたところだ。動く敵を斬ってみたかったんだよな」


「ま、待て……!」

 イリスが止めようとするが、その声が聞こえているのかいないのか、大男はにやりと不気味に笑い、ゆっくりとその髪の輝きにも似た大剣を振り上げる。


「うりゃあ!」

「うわぁっ!」


 ゆっくりと振り上げられたのとは対照的に目にも止まらぬ速さで振り下ろされた剣にイリスは驚き、情けない声を上げながら尻もちをついてしまった。しかし、そうしなかったら今頃右半身と左半身が永遠の別離を経験していただろう。


「ははははは。ビビってやがる、こいつ!」

 そのイリスの情けない姿を面白がってか、男は先ほどよりも明らかに手加減した振りでイリスに斬りかかってくる。


 素早く立ち上がったイリスだが、反撃しようにも丸腰で武器など何も持たないので、相手の動きをよく見て躱し続けるしか手はない。


「オラオラオラオラ! どうした? 早く逃げないと死んじまうぞ!」


 嗜虐的な笑みを浮かべつつ、男は完全に面白がってイリスに避けないと当たってしまうぎりぎりの所を狙ってぶんぶんと大ぶりを繰り返す。


 少しずつ後ろに下がりながら攻撃を避けていたイリスだったが、ついに壁に追い込まれてしまった。左右に逃げるにはあの大剣をくぐり抜けねばならず、男の攻撃の速さからするととてもできそうになかった。


「もう終わりか? 飽きてきたところだからちょうどいい。それじゃ終わりに――」

 男が大剣を振りかぶったところで動きを止めた。


「くく……くくく……」


 不敵に笑うイリスを見て男はそれを不審に思う。

「何だ? おかしくなっちまったのか? まあ、どうせ結果は同じなんだ。おとなしく俺の経験値に――」


「いや何。面白くてな。お前のあまりにもテンプレ通りの行動に」

「何だと……!?」


「昔の偉い人はこう言ったそうだ。『得物を前に舌なめずりをするのは三流』ってな」


「てめえ……!」

 男は激高し、大剣を再び振り上げた。そのまま躊躇せずイリスに振り下ろそうとした時、何か巨大なものが男の頭上から落下して、男の上半身を包み込んだ。男から見たら突然暗闇が訪れたかのように見えただろう。


「な、何だ? 何が起こった……?」

 男は驚き、剣をやたらめったら振り回すが逆効果だ。彼の上半身にかかっている巨大な布はそれによってますます男の身体に絡みつく。


 周囲の壁に飾り付けられていた旗のひとつが男の頭上に落下して彼の視界と動きを阻害していた。


「くそっ、くそっ! なんだこれ! てめえ、何をしやがった!」


「調子に乗って大ぶりなんかしてるからさ。VR格闘ゲームで視線による相手の動きの誘導は基礎中の基礎だ。プレイしたことないのか?」

 イリスが無様にもがく男を笑う。


 イリスは男の動きを誘導して、その剣の切っ先がちょうど旗を吊るしている紐を切るように仕向けた。周囲の状況から打開策を見いだすのはタクティカルゲームで世界有数のプレイヤーであるイリスにとって得意とすることだった。


「この野郎! 俺をバカにしやがって! ぶっ殺してやる!」

 男が怒り狂って闇雲に大剣を振り回す様をイリスは離れた場所から眺めていた。


「第1勇者様、何事ですか!」

 遠方から数人の兵士とおぼしき人々と、役人と思われる人が慌ててやってくるのが見えた。これでこの騒ぎも落ち着くだろう。

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