おお、ファンタジー!

「うわっ!」

 尻に衝撃を受けた。


 どれくらい落ちていただろうか。数分にも思えるし、一瞬だったようにも思える。

 しかしどこかから落ちてきたにしては衝撃も小さかったし、身体に痛みも感じない。


「まあ、ゲームだからそのあたりは当然なのか」

 イリスは勝手にそう納得すると立ち上がってあたりを見渡した。


 学校の運動場のような広い空間だ。円形で、周囲は高い壁に覆われているから、校庭というよりは野球場に近いかもしれない。その高い壁にはどこかの国の国旗らしき紋様が描かれた巨大な布が一定間隔で垂れ下がっている。


 グラウンドに相当するところには数々の構造物――木を人型に組み合わせたものとか、ダーツの的みたいな同心円状のもの、砂場だったり木で組まれた障害物のようなものなどが置かれている。


 そしてその周りでファンタジックな衣装に身を包んだ人々が剣を振り回したり、手から炎を出したりしている。


「おお、ファンタジー!」

 思わず叫んでしまった。VRゲームは数多くプレイしてきたが、これほどまでにリアルで空気感の感じられるゲームはプレイしたことがない。


 しかし、これがゲームであれば最初にイベントが設定されていて何をすべきかのチュートリアル的な出来事があるはずなのだが。


「その辺はやっぱり未完成なのか」

 そんな考察をしていると、背後から声が聞こえてきた。


「なんだこのガキは。こいつもテストターゲットなのか?」


「ガキとは何だ! オレはれっきとした……」

 イリスが反発して振り返って見ると、そこには見上げるような大男がいた。


 銀色に輝く髪。やや切れ長気味の濃紺の瞳が冷たい印象を抱かせる。大男にありがちな筋肉や脂肪の塊といった感じではなく、意外にも細身の身体をしている。


 巨大な剣を背に担ぐように持つその腕に盛り上がる筋肉からもその身体がただ細いだけでないことがうかがい知ることができる。


「おい! こいつも斬っていいんだよな?」

 大男は遠方にいる誰かに向かって声をかけている。いやちょっと待て。今物騒なこと言ってなかったか……?

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