007

仕事内容は一成さんの秘書だけれど、正社員ではなく派遣会社を通しての登録型派遣社員。派遣登録の際に面談があったけど、一成さんの秘書として働くことは決定事項のようで、呆気にとられる私をよそにとんとん拍子に契約が進んだ。


確かに契約書類には、『会社名:株式会社塚本屋』と書いてあった。


夏菜の名字は『塚本』だから、なるほど、家族経営の会社なのね、一成さんが副社長なのも納得だわなんて思っていたわけだけど。


目の前にそびえ立つ高層ビルを前に足がすくむ。


ビルの前には「定礎」と刻まれた銘石と共に会社名『株式会社塚本屋』の名とロゴが記されている。


「塚本屋って、あの塚本屋ですか?」


このロゴは見たことがあるのだ。テレビのCMでもよく見かける。創業は江戸時代、お茶の老舗で、京都や静岡の名店と名を張る程の超有名な会社。


「ええ、あの塚本屋です。大企業でお仕事できるのも、派遣の強みですよね」


と、営業担当は自信満々とばかりに胸を張る。


「あ、はは、そうですね……」


ハンマーで殴られたかのような衝撃を受けた私は、乾いた相槌しか打てなかった。


今思えば、そう、今思えばだけど、夏菜の家は高級住宅街の一軒家で、しかも結構大きくて、お金持ちっぽい感じはしていた。


お父さんが会社経営しているとしか聞いていなかったけど、まさかこんな大企業だなんて思わなかった。


「夏菜……そうならそうって言ってよ……」


実は彼女はバリバリの社長令嬢だったのかと、どうでもいいことをぼんやりと考えていた。

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