008



塚本屋のビルは、一階にお茶屋、二階にカフェスペース、そして三階以上がオフィスビルとなっている。なんでも塚本屋の事務部門がここに集約されているのだとか。


受付で入室許可証を受け取り、営業担当とはここで別れる。


「では片山さん、お仕事頑張ってくださいね。副社長の秘書はすぐに辞めちゃう人が多くて困っていたんですよ。片山さんには期待していますよ」


「えっ?!」


さらりと怖いことを言い残し、営業担当は笑顔で去っていった。


すぐに辞めちゃう……って?


心に引っ掛かりを残し不安な状態のまま副社長室へ足を踏み入れた私は、彼の姿にあっと息を飲んだ。


さらりと流れる髪は清潔感があり、それでいてどこか繊細さを感じさせる。すっと伸びた鼻すじに薄い唇。そして意志の強そうな焦げ茶色の瞳。濃紺のスーツを着こなし、長い手足が際立つよう。


一成さんに会うのは何年ぶりだろう。


私が記憶していた一成さんの何倍も大人の魅力がたっぷりで、とたんに鼓動が早くなる。


「あ、あの、今日からここで働かせてもらうことになりました。片山千咲です。よろしくお願いします」


まるでぎこちない挨拶に自分でも動揺する。


一成さんに会うことがこんなにも緊張するだなんて。

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