ザワワ蠢動する

第4話 変容

　ドンッ

　グレネード弾が炸裂する。超巨大ゴリアテの体に数メートルの大穴が開くが、そいつはひるまなかった。ゆっくりと俺たちに向かって進んでくる。その後の数発も同じ結果だった。俺たちは外壁の近くまで追い詰められた。

　ドンッ

　次の一発が超巨大ゴリアテの右目を吹き飛ばした。ゴリアテは動きを止め、残った左目が怒りに燃える。

　ゴォォォォ

　超巨大ゴリアテが洞窟ほどもある口を広げ唸り声を上げた。唸り声が俺たちの臓腑を揺さぶる。そして周辺の森や海の中から数十匹の巨大ゴリアテが現れた。そいつらは超巨大ゴリアテに近づいていく。一匹が前に来ると超巨大ゴリアテは前足を振って爪で自らの身体を切り裂いた。巨大ゴリアテも自らを引き裂き、超巨大ゴリアテの傷口に跳びつく。傷口の周りの皮膚がうねうねと動き、巨大ゴリアテを包み込んでいった。

「あれがやつらの融合方法です。目障りな敵がいたので、自らを強化して叩きつぶそうというのでしょう」

　佐々木教授は恐ろしい推論を述べた。　

「大丈夫ですよね。融合してもそいつで倒せますよね」

　大野主任の問いかけに、村松隊長の答えは

「残念ながら弾切れです」

だった。

　巨大ゴリアテたちは次々と超巨大ゴリアテに取り込まれていく。その体色は、緑色、青紫色、黒褐色と様々だった。超巨大ゴリアテは目を薄く開け、融合に専心しているようだった。

　俺たちは∞ステーションの外壁のそばまで退き、打開策を探った。

「一つ方法があります。収穫マシンには殺獣用の電撃銃が装備されています。∞ステーションを稼働させ全電力を直結させれば強力な武器になります」

　遠藤技師が提案した反撃方策に、

「でもどうやって稼働させるんだ？」

村松隊長が呻く様に訊ねる。

「ザワワ君にお願いしたらどうかしら」

　ドクター佐倉が声を上げた。そして、俺の足元にいたザワワの前にしゃがみ込み話し始める。

「ねえザワワ君、あなたの大切なご主人様が大ピンチなの。このままではあの怪物に食べられちゃうわ」

　ザワワは歩脚をざわざわざわと動かした。

「あなたならご主人様を助けられるの。これを見て」

　彼女は通信端末で、鉄甲ムカデが外縁リングを同調行進する映像、そして収穫マシンが電撃銃でゴリアテを仕留める映像を映し出した。

「あなたかが仲間たちと一緒に行進したら、電気を起こして怪物を倒せるの。お願い、やってちょうだい」

　ザワワは今度は歩脚をざわざわと動かす。

そしてザワワは∞ステーションの中に入っていった。植生のない裸地で８の字を描くように一定の軌跡で歩行を始めた。やがて茂みの中から、二匹、三匹と鉄甲ムカデが姿を現した。彼らはザワワのそばに近づき同じように８の字歩行を始めた。その数はどんどん増え続け、辺りが鉄甲ムカデでいっぱいになった時、ザワワは歩行をやめ壁面を上りはじめた。他の鉄甲ムカデも後に続く。

「一つの強い思いは、集団全ての意思になりうるのよ」

　ドクター佐倉が壁面を眺めながら呟く。

　ザワワたちは壁面の上端に達し外縁リングの中に入っていった。それだけでなく、見渡せる壁面の全てに登っていく無数の鉄甲ムカデの姿があった。

「リングに電圧が発生しましたぁ」

　ステーションの制御装置をモニターしていた遠藤技師が叫んだ。

「電圧、少しずつ上昇しています」

　ズンッズンッズンッ、

　∞ステーションの壁面が微細な振動を始めた。制御盤を操作していた遠藤技師が振り向く。

「だめです。電圧を出力できません。ごく微量は外部へ送出されているのですが。例のノイズに似ています」

「他の∞ステーションに救援を求めているのだろう。ゴリアテは彼らの天敵だ。しかも更に強化されている。自分たちだけでは勝てないと判断したんだ」

　佐々木教授が冷静に分析を述べる。

「救援ってどうやって？」

「それを知るのは彼らのみだ。じきに明らかになる」

　何もできない俺たちがじりじりする中、時間が過ぎていく。ザワワたちが内側で行進している外縁リングを見ていて、ばあちゃんの歌の続きを思い出した。

『百足の娘がざわざわわ　叶わぬ恋にざわざわわ

百の手足でざわざわわ　お百度参りをざわざわわ

百の鳥居にざわざわわ

仲間の百足もざわざわわ　百匹一緒にざわざわわ

百日続けてざわざわわ　

神の心もざわざわわ　娘を蝶に変えたとさ』