第3話 探索

 俺たちは着陸して調査を始めた。外壁は十メートルほどの高さまでの穴が開き、送出設備はひどく破損した状態だった。穴から中に入ると、破壊された収穫マシンが何台も転がっていた。ひっくり返って地面に半分埋まっているもの、壁にめり込んで亀裂から内部構造をさらしているもの、内部が燃えて煤で真っ黒になったものなど。だが、何がそうした破壊をもたらしたかを示す手掛かりは残っていなかった。


 収穫マシンの中から破損の少ないものを選び、メカトロニックエンジニアの遠藤技師が修理し、手動で操縦できるように改造した。∞ステーション内での移動手段にするためだ。翌日、俺たちは収穫マシンに乗って下層の調査に乗り出した。


 収穫マシンに乗員用の座席はない。幅広の八輪のタイヤで支えられる車体は巨大なヤゴのような形をしている。操縦者の遠藤技師は車体前部の多機能センサーにまたがり、ほかの隊員は収穫槽の階段状の外装に腰かけて、繋いだロープで体を保持していた。俺は収穫マシンの右側でつかまり立ちし、前に宮内さん、後ろに村松隊長がいた。ザワワは俺の足元で車体にぴったり張り付いている。

 ロープにしがみ付く宮内さんの姿は心細そうに見えた。

「宮内さん、大丈夫ですよ。この探索は帰還が最優先です。危険を発見したらすぐ退却ですから」

「そうよね、無事に帰って……」

 彼女の声は小さく、最後の方は聞き取れなかった。


 天蓋越しに届く日の光は弱々しく、空気はじっとりと湿っていた。羊歯が生い茂る小高い部分と葦が密生する湿地が不規則に連なっている。ところどころに鉄甲ムカデの外殻の残骸が小山のように積み重なった塊があった。ゴリアテの糞だまりなのだろう。だが、ゴリアテそのものの姿はなかった。

「ゴリアテが一匹もいない……」

「まったくいない訳じゃないですよ。ほら、あの茂みの下に」

 宮内さんの言葉に目を凝らした時、突然足元から上に突き上げられた。体が宙を舞い、次の瞬間、目の前に葦の茂みがあった。そのまま地面に叩きつけられる。激痛の中、必死に起き上がろうとするが、身体が何かにはまって動かない。何とか上半身を起こした時、目に入ったのは横転した収穫マシンだった。そしてその横に巨大な姿があった。

 ぬめぬめした皮膚と巨大な目と口、それはゴリアテのものだったが、大きすぎる。頭までの高さが三メートルほどもある。体は鮮やかな緑色だ。そいつはゆっくりと俺のほうに体を向け、上体をかがめてジャンプの姿勢を取った。


 喰われる、逃げようとしたが腰まで沼にはまっていた。動けない。恐怖で全身がピリピリと痛む。その時何かがゴリアテの体を這い上がり、その右目に取り付いた。ザワワだ。目玉に牙を突き立てる。ゴリアテは跳び上がり、首を振ってザワワを振り払った。

「皆、伏せろぉ」

 背後からの叫びに続き、

ドンッ

 腹に響く破裂音とともにゴリアテの頭部が粉砕された。

 振り返ると村松隊長が多連装グレネードランチャーを抱えて仁王立ちしていた。


 俺たちは絶命したゴリアテに歩み寄った。

「それにしても巨大すぎる」

「本来茶褐色のゴリアテが緑色をしています。融合ユーグレナの遺伝子を取り込んで融合能力を身につけたのでしょう」

「何て事だ。とにかく、横転した収穫マシンを人力で起こすのは無理だ、撤退しよう。佐々木教授、こいつの細胞サンプルを採取してください」

「了解です」

「急いでくれ。この怪物が一匹だけとは思えない」

 村松隊長の言葉に、背筋に冷たいものが走った。


 村松隊長の懸念は的中した。徒歩で引き返す途中、俺たちは三回にわたって巨大ゴリアテに襲われたのだ。村松隊長がグレネードランチャーで何とか撃退し、出口にたどり着く。

 壊れた外壁を抜け、ようやく明るい光の差す屋外に出た。イオノクラフトの駐機場所へ進む途中、突然日光が遮られ辺りは薄闇に包まれた。見上げる俺たちを巨大な二つの目玉が見下ろしていた。

 ゴリアテだ。こいつはさらに大きい、数倍の体高だ。その体は深い青紫色をしていた。

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