colorful

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　目移（めうつ）りする程（ほど）に煌（きら）びやかな世界（せかい）。少年（しょうねん）は、そんな世界（せかい）が大好（だいす）きです。

　理由（りゆう）は、綺麗（きれい）だからと言（い）う単純（たんじゅん）な理由（りゆう）。

　心（こころ）を躍（おど）らし駆（か）け巡（めぐ）る世界（せかい）は、沢山（たくさん）の色（いろ）で溢（あふ）れていました。

　火（ひ）の赤（あか）。土（つち）の黄土（おうど）。草（くさ）の緑（みどり）。水（みず）の青（あお）。そんな当（あ）たり前（まえ）の色（いろ）を見（み）る事（こと）が少年（しょうねん）にとって至福（しふく）でした。

　しかし、そんな様々（さまざま）な色（いろ）の中（なか）でも特（とく）に好（す）きな色（いろ）がありました。

　それは…『空（そら）』です。

　天気（てんき）や季節（きせつ）を通（とお）し、朝（あさ）から夜（よる）に掛（か）けて、様々（さまざま）な色（いろ）に変（か）わる空（そら）の色（いろ）。

　絵（え）や写真（しゃしん）では、限界（げんかい）がある。そんな空（そら）の色（いろ）が少年（しょうねん）は、欲（ほ）しかったのです。

　少年（しょうねん）は、必死（ひっし）になって空（そら）の色（いろ）を手（て）に入（い）れようと空（そら）が映（うつ）ったガラスや鏡（かがみ）を次々（つぎつぎ）と自分（じぶん）の物（もの）にしていきました。

「こら！」と親（おや）に注意（ちゅうい）されるも止（や）める事（こと）はありません。

「僕（ぼく）だけの色（いろ）が欲（ほ）しい！」

　そう言（い）って少年（しょうねん）は、無我夢中（むがむちゅう）に空（そら）の映（うつ）った鏡（かがみ）やガラスを見（み）つけては、取（と）っていきました。

　しかし、幾（いく）らガラスや鏡（かがみ）を手（て）にしても空（そら）の色（いろ）は、手（て）に入（はい）りませんでした。

　悔（くや）しさに顔（かお）をしかめて見上（みあ）げるといつもの鮮（あざ）やかな夕焼（ゆうや）けには、黒（くろ）いカラスが飛（と）んでいました。

　そんなある日（ひ）の朝（あさ）の事（こと）です。少年（しょうねん）は、自分（じぶん）の体（からだ）が透明（とうめい）になっている事（こと）に気付（きづ）きました。

　少年（しょうねん）は、慌（あわ）てて親（おや）に自分（じぶん）の体（からだ）の事（こと）を言（い）いました。

「お母（かあ）さん！お父（とう）さん！ぼ、僕（ぼく）の体（からだ）消（き）えちゃったぁ！」

「えぇ？何（なに）言（い）っているの？早（はや）くご飯（はん）食（た）べてなさい」

　お母（かあ）さんは、そう言（い）って洗濯籠（せんたくかご）を持（も）って外（そと）へ洗濯物（せんたくもの）を干（ほ）しに行（い）きました。

「ははは、きっとまだ寝（ね）ボケてるのだな？そうだなぁ……ご飯（はん）の前（まえ）に顔（かお）でも洗（あら）ってきたらどうだ？」

　お父（とう）さんは、そう言（い）って少年（しょうねん）の頭（あたま）を撫（な）でると仕事（しごと）に向（む）かいました。

　部屋（へや）に一人（ひとり）残（のこ）った少年（しょうねん）。どうやら、少年（しょうねん）の体（からだ）が透明（とうめい）になっている事（こと）を知（し）っているのは、少年（しょうねん）だけの様（よう）です。

　不安（ふあん）を滲（にじ）ませながら少年（しょうねん）は、いつもの様（よう）に外（そと）に出（で）て朝日（あさひ）を見上（みあ）げました。

　その途端（とたん）。

　少年（しょうねん）は、朝日（あさひ）の光（ひかり）に吸（す）い込（こ）まれる様（よう）な感覚（かんかく）を感（かん）じました。

　少年（しょうねん）は(消（き）えてしまう！怖（こわ）い…！)そう思（おも）うと同時（どうじ）に理解（りかい）しました。

「僕（ぼく）が取（と）っていた色（いろ）は、全部（ぜんぶ）『無色（むしょく）』だったのだ…！」

　少年（しょうねん）は『映（うつ）った色（いろ）』では無（な）く『色（いろ）が映（うつ）った無色（むしょく）』を取（と）っていたのでした。

　空（そら）の色（いろ）が欲（ほ）しくて無我夢中（むがむちゅう）にガラスや鏡（かがみ）を自分（じぶん）の物（もの）にしていた。

　しかし、それらは、色（いろ）を持（も）たない。周（まわ）りを映（うつ）す事（こと）しか出来（でき）ない無色（むしょく）。

　いつしか、少年（しょうねん）の色（いろ）は、そんな無色（むしょく）に奪（うば）われていたのです。

　戻（もど）れないと思（おも）った少年（しょうねん）は、泣（な）きました。そして、空（そら）に向（む）かって祈（いの）りました。

「ごめんなさい！もう色（いろ）は、取（と）りません！お願（ねが）いです。僕（ぼく）の色（いろ）を返（かえ）してください！」

　その時（とき）、少年（しょうねん）の目（め）からこぼれ落（お）ちた大粒（おおつぶ）の透明（とうめい）な涙（なみだ）には、消（き）えたはずの少年（しょうねん）の姿（すがた）が映（うつ）っていました。

　驚（おどろ）いた少年（しょうねん）は、慌（あわ）てて目（め）の前（まえ）に手（て）の平（ひら）をかざしました。

　少年（しょうねん）は、元（もと）の色（いろ）に戻（もど）っていました。

　潤（うる）んだ瞳（ひとみ）で見（み）る朝日（あさひ）は、普段（ふだん）より一層（いっそう）、綺麗（きれい）な色（いろ）に染（そ）まっていました。