第133話 チーム始動!
☆
セオリクが発した配慮に欠ける言葉。
その言葉に、オリガはくるっと後ろを振り向き、彼に詰め寄った。
「じゃあ、私にどうしろと? 今回の件では、私もフレヤ嬢もすでに咎められてるわ。これ以上どうしようもないじゃない! それとも魔力なしの私にそれを克服しろって言うの? これまで私が何もしてこなかったと思う? 少しでも魔力が増えるように、小さい頃からずっと魔力を使い切る訓練を続けてきたわ。その結果がこの間の『あれ』なのよ!!」
初めて見る、オリガの感情の爆発。
それはもはや悲鳴だった。
彼女が言うように、後天的な努力で魔力量を増やすには、自身が持つ魔力を一気に使い切って魔力枯渇の状態を作り出し、その回復の反動を利用して魔力量を増やすしかない。
だけどそうして増やせる魔力量は、一度でせいぜい0.1%かそれ以下と言われている。
使い切った魔力が回復するには数日かかるから、毎日訓練できるわけでもない。
元々の器が小さければ魔法が発動できるようになるまで数十年かかるか、生きているうちに到達できないことだってある。
仮にオリガが訓練を続けたとして、ルーンフェルトの生徒の平均程度にまで魔力を増やすには、十年以上はかかるだろう。
長い、長い道のりになることは間違いない。
一方オリガに詰め寄られたセオリクは、彼女の剣幕に狼狽しているようだった。
「……悪い。あんたの努力がどうとかそういう話じゃないんだ」
「じゃあ、どういう話よ?」
怒気を孕んだ声で言い返すオリガ。
セオリクは一瞬考えると、こう切り出した。
「要点は二つだ。一つは今日のアレを放置すれば、お前の実家について間違った評判が拡がるということ。もう一つは、お前が活躍してうちのパーティーが圧倒的な成績を叩き出すことができれば、そんな噂はあっという間に霧散するってことだ。要するに、『俺たちで結果を出して見返してやろう』––––そういう話がしたかった」
先ほどの無遠慮な物言いから一転して、丁寧に説明するセオリク。
その言葉からは、真摯さが感じられる。
そっけなく、誰からも距離を置く普段の彼と、目の前の仲間思いの彼。
一体どちらが本当の姿なのだろう?
私がそんなことを考えていると、オリガが苦々しそうに言った。
「貴方、ちゃんと理解できてる? 私は魔力が少ないの。出力を絞った基礎魔術三回で枯渇するくらいにね。それに私には、伝説になってる今の魔術技術庁長官のような知恵や賢さもないわ。そんな私がどうやってパーティーに貢献できるのよ。せいぜい足を引っ張るのがオチでしょう」
オリガの視線が下に落ちていき、ついに俯いてしまう。
そんな彼女にセオリクは––––
「あんたこそ分かってるのかよ。俺たちには『彼女』がいるんだぜ」
「……彼女?」
訝しげに聞き返すオリガ。
「ああ」
頷いたセオリクが彼が言う『彼女』の方に顔を向ける。
「「?」」
一斉にそちらに顔を向ける仲間たち。
つまり––––
「はい?」
私はあまりに突然な振りに、間抜けな顔を返したのだった。
「ちょ、ちょっと待って。なんで『私』???」
動転した私に、セオリクが答える。
「君は魔導具が作れるだろ。それでなんとかできるんじゃないかな、と思ったんだ」
「え?」
ちょっと待って。
私、セオリクの前で自分が魔導具師だって言ったっけ???
たしかに、入試の面接では『魔導具づくりのために魔術を学びたい』って志望動機を説明したけれど。
クラスの自己紹介では、身元を隠すためあえて触れなかったはず。
なのに、なんで???
ぎょっとする私を前に、セオリクは言葉を続ける。
「君の出身地、ハイエルランドは北大陸随一の魔導具開発国だ。それにバリエンダール教諭が魔導具の話題を出したときに思いきり反応してたじゃないか。––––それでそう思ったんだけど、違うのか?」
うっ……。
よく見てるわね。
私は額を押さえて思案すると、顔を上げた。
「たしかに私は魔導具師よ。工具があればちょっとした修理や改造ならできると思う。だけどなんでも作れる訳じゃないし、一から何かを作るなら木工と金属加工の両方に対応できる工房が必要よ」
これは嘘じゃない。
この一週間の私の一番の悩みは、まさにそこだった。
製図はまだいい。
寮の勉強机でなんとか作業できるから。
材料の仕入れも、エーテルスタッドの街に出ればなんとかなるだろう。
問題は『学内に部品加工ができそうな設備や工房が見当たらない』ということだった。
「工房か……。つまりそれさえなんとかなれば、彼女が抱える問題を解決できるんだね?」
セオリクの問いに、私は少し考えてから頷いた。
「完全に解決できる訳ではないけれど、ね。とりあえずこのメンバーで一緒に戦っていく分には不自由がないようにできると思うわ」
「…………うそ」
信じられない、という顔で呟くオリガに、私は微笑んでみせる。
「魔力が足りなければ誰かから借りればいいのよ。幸いうちのパーティーには魔力が有り余ってる人がいるから、その辺りは苦労しないと思うけど」
私とリーネ、それに入試の時の実技試験を見る限り、多分セオリクもかなりの魔力もちだ。
魔力消費の少ない魔術に使う程度であれば、仲間に分けてもどうということはないだろう。
魔力の貸し借りは、私もアンナと飛行靴(フライング・ブーツ)を使って飛ぶときにいつもやっている。
要は、今まで私のコントロールでやっていた魔力供給と受領を魔導具で自動化してやればいい。
例えば、腕輪か何かで。
私の中でどんどんイメージが固まってゆく。
けれどオリガは、首を横に振った。
「それじゃダメね。人からもらった魔力じゃ魔術には使えないわ」
「どういうこと???」
聞き返した私に、オリガは自嘲するような笑みを浮かべた。
「魔力不足をなんとかしようと文献を読み漁っていて、魔法について書かれた外国の本に魔力授受のことが書かれているのを見つけたの。それで、兄たちに協力してもらって試してみたのよ。––––結論から言えば、『魔力授受で受け取った魔力はそのままじゃ魔術には使えない』。時間をかけて自分の体に馴染ませなきゃ、属性の変換がうまくいかないの。魔法には使えても、ね」
なるほど。
たしかに人間が体内に持つ魔力の波長は、人によって個人差がある。
詠唱によって魔法陣を構築して発動する魔法なら多少の波長の違いは問題にならないけれど、属性変換によって魔力の特性を変えて発動する魔術では、その差が無視できないということなのだろう。
「なるほど。それはちょっと大変ね」
「…………」
再び、お通夜のような空気になるオリガと仲間たち。
そんな彼女たちに、私は言った。
「でも、そのくらいならなんとかできるわ」
「「えっっ?!」」
みんなが一斉に私の顔を見た。
☆
その夜。
私は寮の会議室の一部屋を貸し切り、窓から中庭を見下ろして一人佇んでいた。
夕食後ということもあって、さすがに中庭に人影はない。
皆、自室で勉強したり、ルームメイトとのおしゃべりに花を咲かせているんだろう。
部屋にはただ、月の明かりが静かに射し込んでいた。
魔導具づくりに必要な設備については、仲間たちがどうにかできないか調査に動いてくれることになった。
私も早々にオリガ用の魔導具の設計に入りたいと思っている。
だけどその前に、考えをまとめておかなければならないことがある。
生徒会書記のナターリエのこと。
そして、前世で私の婚約者を篭絡したナタリー・クランドン・グレイシャーと、聖国で見た白昼夢のことだ。
私は会議机のところに歩いて行き、机の上置いたカバンを開けた。
「ココ、メル、相談にのってくれる?」
次の瞬間、青い光とともにカバンから飛びだすクマたち。
「「もちろん(よ)!!」」
こうして、久方ぶりの『くまさん会議』が始まった。
☆
皆さま、アンケートへのご回答ありがとうございました!
他サイトと合わせて、内容分析と重みづけをして集計しましたところ、
・仲間とのあれこれとナタリーの謎がほぼ同率一位
・魔導具づくりが次点
・少し離れてダンジョン攻略
・レティの魔術研鑽を!
という結果となりました。
今後の展開の道しるべになるとともに、本業多忙と執筆スランプが続いていたため、非常に勇気づけられました。
本当にありがとうございます!
またコミカライズ5話が更新されました!
ついに始まった魔導ライフルの開発。
そして愉快な家族たち。
ぜひ見てみて下さい。
https://www.123hon.com/polca/web-comic/yarinaoshi/
引き続き応援よろしくお願い致します!
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