第5話 くまさん会議
☆
(今回はレティシアの脳内補完を交えてお送りします)
「それではこれより『巻き戻り記念・第1回くまさん会議』を始めます」
わーーーー!
パチパチパチパチ!!
議長の私が宣言すると、どこからか歓声と拍手が鳴り響いた。テレビショッピングでよく見る、あれである。
「困ったときは、やっぱり『くまさん会議』ね」
私が、うん、うん、と頷いていると、ふよふよ浮いているこげ茶色のテディベア……ココが微妙な顔でこちらを見た。
「なあ、嬢ちゃん。そろそろ俺たちから卒業した方がいいんじゃねーか?」
「え、なんで???」
「だってさあ。この会議、もう何回めよ?」
「やだココ、さっき言ったじゃない。『第1回』だって」
「いや、そうじゃなくて。やり直し前の最初から数えたらもう何十回めだろ。嬢ちゃんもいい歳なんだから、いい加減……」
「十二歳よ」
「「…………」」
二体のテディベアの怪訝な視線が、私に突き刺さる。
「ほら、どこからどう見ても十二歳じゃない。むしろそれ以外の何に見えるって言うの?」
「いや、今の見た目じゃなくてだな。前からの年齢を合計すると……」
「シャーッ(ラップ)!!」
威嚇する私。
仰け反るココ。
そんな二人の間に入ってきたのは、これまで黙って見ていた小麦色のテディベア……メルだった。
「はいはい、二人とも落ち着きなさい?」
片手で頭を抱え、もう片方の手をぴょこん、とあげるメル。
「ココ。誰にだって相談相手は必要よ。今のレティには本当のことを打ち明けられる相手がいないんだから、せめて私たちが聞いてあげないと」
「まあ、そりゃあそうなんだが……」
腕を組み、悩ましそうに視線を落とすココ。
それを見て、うん、うん、と頷く私。
そう。この会議は私にはまだまだ必要なものだ。自分を客観視できるし、なぜか一人では思いつかなかったような意見を彼らから聞くこともできる。
だから当分の間はやめられない。
決して「一人じゃ寂しいから」じゃないからね?
そんな私を、困ったように見つめるメル。
「とはいえ、ちゃんと卒業してくれると私たちも安心できるんだけどね」
「う……分かってるわよ。このままはよくないって。相談できる人が必要だって。でも、今は頼らせて。お願い!」
私が手を合わせると、メルは小さくため息を吐いた。
「はぁ。まあいいわ。今は非常事態だし会議を始めましょう」
「メル、ありがとう! ココも。二人とも愛してる!!」
そんな私を見た二人は、
「「はぁ……」」
やれやれ、というように首を振った。
「はい。というわけで、今日の議題は『アルヴィン王子との婚約を断る方法』です」
私が議題を発表すると、ココがすかさずビシッと手を挙げた。
「はい、ココ君どうぞ」
私が指名すると、ココは自信ありげに胸を張る。
そして一言。
「王子にこう言えばいいのさ。…………『ごめん。生理的にムリ』」
ビシッ!
「ぐふっ!!」
メルの裏拳が、ココの腹部にヒットする。
「ちょ、何すんだよ!!」
「あなたバカ? バカなの???」
「だって、しつこい男を振るならこれくらい言わなきゃダメだろ?!」
……いや、前提が間違ってるよね、それ?
私も心の中でツッコミを入れる。
目の前では、メルがココに説教をしていた。
「あのねえ。婚約を断るだけなら簡単なのよ。問題は『王の不興を買わないように断らなきゃいけない』ってことなの。おわかり???」
「じゃあ最初からそう言えばいいだろ?」
「言うまでもない話でしょ」
ふう、と一息つく二人。
しばしあって、ココが口を開いた。
「なあレティ。王様ってさ、やっぱり自分が提案したことを断られたら怒るのかね?」
「怒るまではいかなくても、ムッとするとは思う。王族との婚姻は貴族家にとって名誉なことだし、縁戚関係を結ぶことで家門の権勢拡大にもつながるから。それを断るなんて、王家を馬鹿にしているのか、ってね」
「なるほど。それじゃあ簡単には断れないな」
そう。だから私も父も困ってる。
「断るなら、かなり重い理由が必要よね」
メルの言葉で、考え込む。
断る理由、か。
「実はすでに婚約者がいる、とか?」
「たぶん『相手は誰だ』って訊かれるわね」
メルが首を振る。
「宗教上の理由ってのはどうだ?」
「国教であるダリス教を理由にするのは無理があるんじゃないかしら?」
ココの案に今度は私が答えた。
だがココは、諦めず次の案を出す。
「じゃあ、健康上の理由ってのは?」
「確かに一度王様の前で倒れてはいるけど、ちょっと調べたら基本健康なことは分かるわよ」
即答するメル。
「「「はぁ……」」」
三人そろってため息を吐いた。
「うーん。そもそも事前に身辺調査が入ってるだろうし、後づけの理由はすぐにバレる気がする」
私の言葉にクマたちも首肯する。
どうしよう。
手詰まりになってしまった。
考え込む三人。
しばしの沈黙のあと、ココがぽつりと呟いた。
「……ここはひとつ、発想を逆転させて考えるか」
「逆転?」
聞き返した私に、ココは手をあごに持っていき、もっともらしく頷く。
「昔のゲームであっただろ? 行き詰まったら発想を逆転させろ、って」
(ああ、◯◯◯◯ね)
ちなみに記憶の中の宮原美月は、シリーズ全作を三周以上クリアするくらいにはあの作品のファンだった。
「それで、逆転させるとどうなるのよ」
冷ややかな顔で尋ねるメル。
「ふっふっふっ……。『婚約を断る方法』が見つからない––––ならばっ」
ココは腕を振りかぶり、たっぷりの溜めのあと、ドーン! と私を指差した。
「いっそ、婚約を断らなければいいじゃないか!!」
ドヤ顔のココ。
下を向き、体を折り曲げて右手を溜めるメル。
「そんなわけ、あるかーー!!」
ズビシッ!!
「ぐふぉっ!?」
二度目の裏拳が炸裂した。
「……なあ。俺の扱いひどくない?」
「あなたの扱いじゃなくて、あなたがヒドいのよ」
空中にふよふよ浮きながら言い合うクマたち。
二人をぼんやりと見ながら、私の中では先ほどのココのセリフが引っかかっていた。
『婚約を断らない』。
普通に考えればそれは、婚約を受け入れるということ。
だけど、本当にそうだろうか?
婚約を断らず、婚約しない。
そんな選択肢はないだろうか?
例えば…………
「ねえ、ココ、メル、聞いて。こういうことはできないかしら?」
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