第2話 何も残りませんでした

 意見を言うのも頗る苦手です。

 それでもたまに、自分も何かを言わなければ不自然になってまうような状況があると、ウチもなんとか意見を言うのですが、言いながらなんだか陰鬱に興奮してきよって、胸が苦しなり、喉がつまって声もつまり、それでもしゃべろうとして、それが変な必死感を醸し出し、そんな自分が自分で気持ち悪く、惨めで恥ずかしく、笑いながら「まあ落ち着いて」なんて言われた日には、穴があったら入りたいどころか、存在ごと消えてまいたい!思います。


 いや、そう思う時はまだマシで、もっと荒んでいる時は、オマエにこの苦しみがわかんのか?わからへんくせにアタシを勝手に決め付けて偉そうに分別面してんじゃねえわクソボケぇ!と相手に怒りと憎しみを抱く事さえあります。 


 ウチは結局、人とおる時はほとんどいつも、言いたくない事を言い、言いたい事は何一つ言えず、反射的悪癖みたいな感覚でヘラヘラ笑って卑屈感を募らせ、病的な気遣い心で空回りするか、ただひたすら不親切にむっつりするかのどちらかで、たとえ表向きは平静穏やかをとりつくろっていても、心の中ではただひたすら狼狽し、おどおどし、あたふたし、しっちゃかめっちゃかで、感情と表情と、心と言葉と、気持ちと行動と、精神と肉体と、何もかもがちぐはぐで、現在進行形で後悔して、反省して、後になって一人になってからも、振り返ってはまた何倍も後悔し、反省し、恥ずかしく、情けなく、やりきれなく、一人侘しくそんなふうになっている自分がまた惨めで、それでもどうする事もできず、いてもたってもいられなくなり、半ば半狂乱でしみったれた文章書き殴って、やがて書き終わったものを見返して、それも結局どこぞの作家の真似事に過ぎないもので、昔の芸術家のデカダンを気取っているだけのような気がして、己の文才の無さに愕然とし、ぐったり横たわっていると今度は、とてつもない怠惰が襲ってきて、何にもやる気が起きないまるで無気力な状態に陥り、でも胸の中では得体の知れない焦燥感がうごめいて、無気力なのに焦り、焦っているのに無気力という訳のわからない状態でひとり呼吸を荒くするだけで、酷く寂しくでも何もできず……

 ……ひとりでおる時の自分、ウチはそれをも制御しかねるといった全く散々な塩梅で、そんなバカみたいな哀しいどうどう巡りを、現在に至るまでず~っと繰り返してきたのです。


 自分という人間は、どうしてこうも成長せんのか。もはや呆れてものも言えません。

 こんな人間だからなのか、こんな人間が生きてきた人生だからなのか、ウチの周りには、誰一人残りませんでした。


 これでもウチは、常識を持って、誠意を持って、仲間を求めました。

 信頼を求めました。

 愛情を求めました。


 でも、何も残りませんでした。

 こんな自分にも、好意を持って近づいて、慕ってくれる人間も少なからずおるのですが、やがて皆、例外なく、離れていきます。

 何か不吉な臭いを感じるのか、忌々しいものを感じるのか、皆、例外なく、離れていきます。

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