第3話 残ったものがあります

 ウチは、人を怒り憎む事はあっても、恨む事はありません。

 ウチは、たとえ自分が不幸になれど、誰かを不幸にしてやろうとなど毛ほども思っていません。

 そもそもウチには、良い影響力もさることながら、人を不幸にするような悪い影響力すら持ち合わせてないんちゃうかと思います。


 ウチは、それなりに努力もしました。(これも実に心細いものでしょうが......)

 本気で打ち込んだものもあります。

 でも、何にもなりませんでした。

 何も残りませんでした。

 でもまあ、そういうものなんでしょう。

 特別不幸な事でも、悲しい事でもないんやと思います。

 苦労とも経験とも言えないかもしれません。少なくとも自分ではそう思えません。

 ただ要領の悪い、パッとしない人生としか思えません。


 こうして今まで生きてきた中で、ウチの中にたった一つだけ、不気味に残ったものがあります。

 これだけは自負もあります。

 それは、虚しさです。


 ウチは「虚無感」に支配されています。

 寂しさ、悲しみ、それももちろんありますが、虚しいのです。

 何をしても、虚しいのです。


 この虚しさが、ウチが生きていく中での一番の苦しみかもしれません。

 そしてこの苦しみもまた、虚しいのです。

 突然ふとした拍子に虚しさが爆発し、虚無の渦に飲み込まれ、退廃的な苦しみが心身を襲い、それこそ発狂しかける事もあります。

 その度に死にたなります。

 もうアカンかも、と思います。


 自分の未来は、自殺するか乞食になるかのどっちかなんちゃうか。

 生きる事とは絶望の材料を増やす事。

 そんな事が、大袈裟だけど妙に確信めいて思えてたまらなく心細くなり、絶望します。

 そして、もうええかな、と思い自殺を企てます。


 でもやはり、自殺は嫌です。

 自殺は何にもなりません。

 生きていても何にもならないといって自殺したところで、自殺だって何にもならんのです。


 仮にウチが自殺したらどうなるでしょう。

 まず、オカンが死ぬほど悲しむでしょう。それだけはハッキリ言えます。

 オカン以外の人間は、まあ多少は、悲しむ人間もおるかもしれませんが、おらんかもしれません。

 これはわかりません。

 あとは「イタイやっちゃな」と思い、気持ち悪がるかもしれません。

 これはあるような気いします。


 とにかく、こんな事を考えていくと、自殺も結局、虚しいのです。

 虚しさ。

 これは一体何なのでしょうか。


 ウチのような虚しさを抱えている人間は、一体どれぐらいおるのでしょうか。

 ウチの経験から推測するに、そこまではおらんような気がします。

 少なくとも、今までウチのこの虚しさを理解できる人間に、ウチは一度も出会えてはいません。

 それが普通の事なのか特殊な事なのかもわかりません。

 良い事なのか悪い事なのかもわかりません。

 自分が普通なのかイカれているのか、それもわかりません。

 自分では、普通でもなければイカれている訳でもない、ただ中途半端な人間や思ってますが。

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