ホトン・トファラック
地に落ちた竜人を、ホトンは冷たい目で睨んだ。
「チッ、本当に使えないな……」
ホトンは溜息を吐き、僕らを見る。
「……仕方が無い」
「何が仕方ないのかな?」
僕が尋ねるも、ホトンは答えない。
「目撃者を全員消せば問題は無いな」
ホトンの目が、茶色から赤に変わっていく。
「お前達に上忍の戦い方を見せてやる」
瞬間、ホトンの姿が掻き消え、僕の目の前に現れた。
「ッ!?」
振り上げられる短刀。しかし、ネルクスは反応しない。
「ッ、これは……」
僕はギリギリで短刀を回避する。ネルクスは不思議そうに僕を見た。どうやら、彼にはホトンの姿が見えていないらしい。
「……なるほどね。そういうことか」
「我が主よ、何が分かったのですか?」
ネルクスに見えていない、というかだ。
「僕だけに幻を見せてるって所かな」
「あぁ、それで」
納得したように頷くネルクス。やはり、僕の姿は不可解に写っていたらしい。
「おぉ、気付くのが早かったな。だが、今の俺が本当であるかすらお前達には分からない。俺はそれぞれ個別の相手に幻を見せることが出来る」
「そうみたいだね。だけど、幻術は万能じゃない」
僕はそう言ってエトナに目を向ける。
「ふふん、私には幻なんて効きませんよ?」
「えぇ、私にも効きませんねぇ」
幻術は強力である反面、耐性を持つ者も少なくない。僕には普通に効くけどね。
「そうかよ。だが、幻術だけが忍びじゃない」
言葉と同時に、ホトンの姿が無数に分かれていく。
「分身だって有名だろ? 当然俺も使える。それに、幻術も効くやつには効く」
確かに、僕やエクスなんかは効いたままだ。
「でも、やり方はあるよ」
僕はネルクスを見た。そして、テイマーとしての力を行使する。
「
感覚が歪み、僕の視界が入れ替わる。今僕に見えているのは、僕の隣に居るネルクスの景色だ。
「エクス、君は目を瞑って戦った方が良いかもね」
「幻術対策かァ? ま、俺の勘は鋭いからなァ。任せとけ」
そんな僕らを、無数に増えたホトン達が忌々しそうに見ている。
「……何をしたのか知らないが、無駄なことだ」
その言葉と同時に、大量のホトン達が僕らに襲いかかってくる。
「しかし、人の視界で動くのは難しいね」
当然だが、視界だけ他人も入れ替わっている状態で動くのは相当困難だ。それでも、幻の世界で動くよりはマシだろう。
「ネルクス。護衛は任せるよ」
「えぇ、お任せ下さい」
襲い来る無数のホトン。ネルクスはそれを片っ端から破壊していく。その間に僕は従魔達にバフをかけていく。
「この調子なら問題なく勝てそうだね」
そう呟いた瞬間、ホトンの分身達が煙幕を撒き散らしながら爆発する。
「……煙いね」
僕は少し咳き込んだ。煙の奥で金属がぶつかり合う音が聞こえる。この空洞の入り口の方だ。
「マスター、こちらです」
「チッ、駄目だったか」
そこでは、メトとホトンが戦闘を繰り広げていた。
「透明化して逃亡しようとしていたところを阻止しました」
「流れは完璧だったんだがな……詰めが甘かったか」
どうやら、僕らと本気でやり合おうとしていたのはフェイクだったらしい。本当は隙を見て逃げ出すつもりだったということだ。全員消すとか言っていたのも嘘なのだろう。
「――――つまりテメェが本体か」
メトと斬り合うホトンの背後に現れたのはエクスだ。熱気が爆発し、ホトンの服が僅かに焦げる。
「ッ! お前は幻が効くんだろ? だったら余裕だな」
ホトンの目が赤く変化し、エクスに何らかの術を行使する。しかし、エクスは目を瞑ってホトンに直進する。
「馬鹿なッ、効いてないのかッ!?」
「知らねェよ! オラァッ!」
焦ったように姿を透明化させるホトン。しかし、エクスは止まらない。見えなくなったホトンにそのまま拳を振り落とした。
「ぐッ、カハッ……クソ、転移が使えないのがここまで厄介だとは……」
透明化が解除され、姿を現したホトンは火傷と凍傷だらけになり、服も焼けたり凍ったりと滅茶苦茶になっていた。
「一撃でこの威力……しかも、本気じゃない……」
地面に倒れ伏すホトン。従魔達が囲んでいく。
「クフフ、今度は本気の拘束です。抜けられないでしょう?」
ホトンの体に瘴気を漂わせる暗黒の鎖が絡みついていく。ホトンも抵抗するが、今度は抜けられる様子も無い。
「逃亡も、無理か……」
諦めたように言うホトン。
「お前、魂を食うんだろ?」
「えぇ、今から頂こうかと」
そう言って僕の方を見るネルクス。
「うん、食べちゃってい――――」
「――――お前達に渡す情報は無い。忍の務めだ」
僕の言葉を遮って言ったホトン。その瞳から、光が急速に失われていった。
「……え、死んだ?」
「はい、マスター。自決したようです。恐らく、毒でしょう」
あぁ、良く奥歯に仕込んだ毒で〜みたいなのあるけど、そういうこと?
「じゃあ、まぁ……
残念だけど、話は死体から聞かせてもらおう。
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