黒金無双
黒い球体を内側から破壊し現れたのは、ジール。しかし、その体からはさっきまでとは比べ物にならない濃度のオーラが溢れていた。黒金のそれは、ネルクスから見ても危険と言えるレベルだった。
「一分、だ」
声が聞こえた。ジールが斧を振るった。その瞬間、視界を埋める程の黒金色の波動が溢れた。
「マスターッ!」
ネクロの正面に立ったメトは両手を突き出して即座に壁を生成し、斧から放たれた波動を防ぐ。メトによって維持されている壁と、押し寄せる黒金の波動がせめぎ合う。
「
突然、ネクロの背後にジールが現れてその大斧を振り下ろした。ネクロは振り向くことも間に合わず、雪崩のように落ち迫る黒金のオーラを纏う大斧が直撃した。
「マスターッ!!」
「ッ!!」
凄まじい爆砕音が鳴り響き、黒金の爆風が広がって大地が揺れる。正面から押し寄せていた波動を防ぎ切ったメトは悲痛な表情で振り向き、間に合わなかったネルクスは歯を強く噛んで睨む。
「……危ないなぁ」
拡散して消えていく黒金の波動の中から、珍しく真剣さを孕んだ声が聞こえた。
「保険ってのは、用意しておくものだね」
完全に晴れた黒金。現れたのは透き通ったエメラルドグリーンのぶよぶよした何かに包まれているネクロだった。
「助かったよ、ミュウ」
「ピキィッ!」
元気に返事をしたのはグリーンスライムのミュウ。僅かに漂った安堵の雰囲気に、黒金の大斧が振り下ろされる。
「クフフッ! 中々やってくれますねぇ!」
「『地壊空滅、星崩界尽……真・
ジールは言うが、何も起きない。これがこの異常な強化の正体だと、教えているのだろう。大層な詠唱だが、実際ここが奈落でなく、冥界でなく、現世ならば周辺の環境全てを破壊し尽くしてしまうだろう。
「……一分?」
ネクロはジールの言葉を思い出した。そして、直ぐに察した。これは制限時間だ。元々が制限時間付きの強化術を更に増幅させたのだ。制限時間も更に短くなるのが妥当だろう、この一分というのが何を表しているのかまではジールは説明しなかったが、そうに違いないだろう。
「ぐッ!」
「ネルクスッ!?」
ネルクスの胸に大きな傷が刻まれ、ネクロの横まで吹き飛ばされる。直ぐに追撃を掛けようとしたジールだが、三人のネルクスの分身が殺到して道を塞ぐ。
「
放たれたのは最初と同じ黒金の波動。至近距離で食らったネルクスの分身達は消し飛んだが、ネクロはメトの壁で守られた。
「時間稼ぎだッ! 凌ぎ切るッ!」
叫ぶネクロの上を、ジールが飛ぶ。
「
空中に浮かんだジールが大斧を掲げると、そこから黒金の鎖が四方八方に広がっていく。それはネクロ達に飛んでくる訳ではなかったが、何か不味いと察したネクロは転移で逃れようとする。
「やばいね、転移できない」
だが、転移は発動しなかった。気付けば、既に鎖はジールの居る位置を頂点とするピラミッド状に広がっていた。もしかしなくてもこの範囲からは出られないのだろう。
「ッ、アレは阻止させていただきましょうかねぇ」
そのまま空中で大斧を振り上げているジール。大斧が黒金の輝きを僅かに強めていくのを見てネルクスは地を蹴り、空を蹴り、飛んだ。
「
風のように揺れる暗黒を纏う拳がジールに叩き付けられると、ジールの体が大きく後ろに仰け反るが、構えは解かなかった。
「ッ!
再び振り抜かれる暗黒を纏う拳。
「ッ!?」
思わず驚愕を表情に出すネルクス。ジールの胴体には
「マスター、アレは危険ですッ!」
「ッ、アレは不味いね……ッ!」
焦ったようにメトと同時に言うネクロだが、それを対処する手段が思いついている訳でもない。それに、もう考える時間は無い。
「――――
瞬間、大斧に集約されていた黒金のオーラが三日月のような黒金の斬撃として放たれた。
「ッ、黄金よッ!」
大木程の大きさの斬撃が形を持ったそれは申し訳程度の黄金の防御を展開するネクロまで一瞬で迫り……
『ガァアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!』
巨大な赤竜がネクロと斬撃の間に割り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます