ジール・ルファス
四人の悪魔。全員が同じ顔をしているが、気配を見極めれば本体がどれかを判別するのは簡単だ。ジールは本体のネルクスを睨んだ。
「そろそろ、お前のことも分かって来たぞ……悪魔よ」
「おやおや、それは光栄ですねぇ」
恭しく執事のような礼をするネルクス。ジールはそれに構わず飛び掛かった。
「仕留めるぞ、悪魔」
空中で大斧を振り上げるジール。その体から黒金のオーラが立ち昇る。
「
「ッ、なるほど……」
大斧が、墜ちる。瞬間、その地点から黒金の爆発が溢れた。
「私を狩れると踏みましたか」
「そうだ」
転移で逃れたネルクスの眼前に一瞬で迫るジール。その速度はさっきの五倍はある。
「
「
黒金のオーラを帯びた黒金の大斧がネルクスに迫るが暗黒のオーラに受け流されるように滑り落ち、地面に直撃して黒金色の爆発を起こした。
「メト」
離れた場所。それをただ見ていたネクロが、メトを呼んだ。
「あれ、時間制限付きだよね」
「黒い金色のオーラのことでしょうか?」
ネクロは頷く。
「うん。時間制限じゃないにしても、何かの制限か条件は付いてる能力だと思う」
あの身体能力強化は不意打ちに使えるものではない。故に、これまで出し惜しみしていたのは不自然だ。死の宝珠の支配下にある以上、楽しむために出し惜しんでいたという訳でもないはずだ。そうネクロは考察した。
「
凄まじい勢いで振り下ろされる大斧には黒金の炎が纏わりつき、ネルクスの前に展開された暗黒の壁にぶつかると同時に爆発し、壁を破壊しながらその炎を撒き散らす。
「クフフ……久しぶりに傷を負いましたねぇ」
ネルクスの執事服が焦げ、皮膚に少しの火傷が見えたが、どちらも直ぐに治っていく。
「うん。介入しようか」
今までただ観戦しているだけだったネクロは、黄金の首飾りをインベントリから引っ張り出して自分の首にかけた。
「ジール・ルファス。そう甘くないみたいだからね」
ネルクスを殺せる相手なんて今まで一人も居なかったが、目の前の男にはその可能性が見えた。そして、その可能性がある以上ただ黙っている訳にはいかない。彼もネクロの従魔の一体だからだ。
「『
黄金の力を解放したネクロ、その横にメトが立つ。
「遠隔支援だ、メト」
「了解です、マスター」
触手のような黄金が無数に伸びる。その横で見えない何かが揺らめく。透明なそれの数は二つ。しかも、その大きさは巨大だ。
「
無数に伸び、迫る黄金を見たジールはネルクスに振り下ろそうとしていた大斧を振り回し、黄金の触手を薙ぎ払った。
「クフフ、隙を見せましたねぇ?」
だが、大斧を防御のために振り回したのはネルクスの目の前。その後隙にネルクスは空かさず拳を叩き込む。
「どうだろうなッ!」
「クフフ」
珠玉が光り、色を変えると、ネルクスの拳がジールに触れる寸前で凍てついた。しかし、ネルクスは笑った。
「ぐッ!?」
空気が揺らめく。先端から姿を現したのは巨大な真っ黒い金属の柱。それはうねり、ジールに迫る。何とか大斧を盾にして防げたかのように見えたが、背後からも同じ柱が迫り、二つの柱はジールを圧倒的な質量で完全に挟み、呑み込んだ。
「おぉッ、凄いね。メト、あの金属は?」
「元々はただ透明なだけの性質を持つ妙透石でしたが、それが目標にある程度近付いた時点で変質させました。あの黒い金属はヴィルメタルと呼ばれ、非常に硬く物質の転移を妨げます。それと同時に魔力の流れそのものを妨害する効果もあります。術士側の技量が高ければ転移妨害効果を突破することも可能ですが」
イヴォルならば簡単にあの黒い金属の中からも転移で抜け出せるだろうが、ジールにとっては難しいだろう。
「クフフ、メトさん。お手柄のようですねぇ」
「いえ、これを可能にする隙を作ったのは私ではありませんので」
二本の巨大な黒い柱が融合して出来た黒い球体。その中心にはジールが居る。簡単に抜け出せるということも無いだろうが、油断はできないとネクロは気を引き締めた。
「じゃ、どうする? これ」
「取り合えず、今は拘束を強化して賢者を待つのが得策では無いでしょうかねぇ?」
巨大な黒い球体を指さして言うネクロに、ネルクスが答える。
「だったら急ごうか。今までだと、このパターンは大体抜け出されてるからね」
言いながらしみじみと過去を思い出すネクロ。一瞬だけ気が逸れたその時、黒い球体にピシリと罅が入った。
「……まぁ、やっぱりこのパターンだよね」
溢れる黒金の炎と爆風に顔を顰め、ネクロは溜息を吐いた。
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