白領と黒羅
白領転移、その言葉が聞こえた瞬間。イヴォルの視界から二人の姿が消えた。
「そこだな?」
しかし、イヴォルは転移した瞬間に転移先に魔術を放った。右側に転移した白領のエザンには巨大な獅子を象った炎が、左側に転移した黒羅のグオンには横向きに振る雨のような尖った水の雫の群れが放たれた。
「白領召喚、貴盾」
「黒流打雨」
エザンの前には黄金の装飾があしらわれた白く大きな盾が現れ炎の獅子から守り、グオンの黒を纏った拳による乱打は針のように鋭い雫の群れを受け流しきった。
「ふむ」
自らの攻撃を防いだ二人を見て、イヴォルは頷いた。
「黒羅鞭臨」
グオンの背から触手のような黒い鞭が無数に生える。大きさはただの鞭並みだが、伸縮自在で数の多いそれは真っ直ぐにイヴォルに向かう。
「その程度か?」
イヴォルに近付いた黒い鞭たちはイヴォルを囲うように分散し、四方八方から迫る。
「囲まれようと、意味は……ッ」
転移が、空間魔術が使えない。気付いたイヴォルだが、黒い鞭は既にイヴォルに迫っている。
「この白い世界の力か……少し、焦った」
だが、イヴォルに鞭は届かなかった。イヴォルを囲むように展開された虹のドームが鞭から守ったのだ。
「さて、先ずはこの鞭を纏めて吹き飛ばすとしよう」
動かせない代わりに
「白領転移」
「やはり来たか」
ドームの内側、イヴォルの背後に転移したエザン。しかし、それを読んでいたイヴォルは既に構築していた魔術を起動する。
「ッ!?」
地面から生える無数の鉄の棘、エザンはそれが足から刺さってくるのを感じながら転移で逃げようとしたが、一瞬だけ思考が霧散しそれは叶わなかった。
「ぐ、ぉ……白領、転移ッ」
足から脳天まで無数の鉄の棘で串刺しにされたエザンは何とか転移を発動し、身体中がボロボロになりながらも何とか逃れた。
「身体の体積が七割以上失われたはずだが、やはり死なんか」
言いながらイヴォルは虹のドームを解除しつつ、
「掠ったか」
虹の奔流は黒い鞭を消し飛ばしながら進み、一瞬でグオンまで到達した。だが、何とか回避姿勢を間に合わせたグオンは右足を吹き飛ばされるまでに被害を抑えた。
「……む?」
グオンも、エザンも姿を消した。気配を辿れば上空に居ることが分かった。
「再生の時間を稼いでいるのか?」
体の七割以上が失われては流石に再生にも時間がかかる。その時間を白領転移によって上空で耐久するという狙いだとイヴォルは考えた。
「……ふっ、クカカカッ! この私を相手に長期戦を挑むとはな!」
イヴォルは笑い、より集中力を高めてこの白い世界を見た。
「――――見えてきたぞ」
白い世界の中、イヴォルは呟いた。
「……クカカ」
上空から傷を癒した二人が降りてくるのが見える。
「解析は、完了した」
イヴォルは、静かにそう告げた。瞬間、イヴォルから強烈に魔力が迸る。
「『劫破封術、弄するは無為』」
何か致命的なことになる。それを察した二人は、一瞬で攻勢に出る。
「『術を喰らい、理を食む』」
黒い弾丸が雨のように降り注ぎ、イヴォルの背後に転移したエザンが白い刃を振るう。
「『魔なるも秘なるも、解し
しかし、弾丸も刃もイヴォルを囲うように突然浮かび上がった魔法陣により防がれる。
「『
ピシリ、白い世界に罅が入った。
「白領転移……ッ!?」
危機を察し、イヴォルから離れようとしたエザンだが、転移は発動しない。
「
その隙を見逃す訳も無く、イヴォルの杖から虹の奔流が放たれ、エザンを呑み込む。
「
体の半分以上が消し飛び、胸から上と膝から下に分けられてしまったエザンに止めを刺そうとするイヴォルだが、そこに黒い弾丸の雨が飛来する。エザンも巻き込む範囲の広さだが、どうせ再生するから構わないという考えだろう。
「『
イヴォルの足元から放射状に幾つもの鉄の壁がせりあがっていく。分厚い無数の鉄壁の群れはイヴォルを弾丸達から防いだ。
「『
更に、イヴォルはグオンに向けてもう一つの魔術を発動した。それは雷の魔術だ。イヴォルにしっかりと位置を把握され、既に様々な情報を掌握されているグオンの頭上から巨大な魔法陣が一瞬で展開され、大木ですら容易に焼くほどの雷が落ちた。
「ぐぁッ!?」
計算され尽くされた魔術はグオンでは防げず、黒羅の二つ名を持つ男は全身を焼かれ、痺れ、呆気なく倒れた。
「さて、先ずは白い方からだな」
もはや戦闘続行不可となった二人。イヴォルは先ずエザンに近付き、その額に杖を当てる。
「『
白領の二つ名を持つ男は、今完全にこの世界から消え去った。
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