二の騎士
瞬間、前後から同時にウーマが走る。挟まれる位置のエトナは冷静にそれを確認すると、前方のウーマに走り、腕を黒い刃に変えて斬りかかった。
「へぇ、向かってくるか」
斬りかかるエトナに、ウーマは立ち止まって刃を受け止めた。
「本体が止まれば、分身も止まるってことですよねッ!」
「ははっ、確かにそうだね」
エトナの刃を弾き、ウーマが一歩後ろに下がる。
「だけど、そう簡単に破らせる気は無いよ」
言いながら、空けた距離を一気に詰めるウーマ。青い刃が閃き、エトナの首を狙う。
「遅いですっ!」
青い刃を避けながら、ウーマの懐に潜り込むエトナ。ウーマの横腹を黒い刃が切り裂く。が、噴出したのは血ではなく水だった。
「入れ替わりですか……」
いつでも回避に入れ替わりを使えるということは、何度でも捨て身の攻撃を繰り返せるということだ。エトナは目を細め、入れ替わりで本体となった遠くのウーマを見た。
「そうさ。中々、厄介でしょ?」
分身を消し去りながら飄々と言うウーマ。
「確かにそうですね……でも、これで分かりました」
エトナの姿がブレる。瞬間、ウーマの目の前には黒い刃を振り上げるエトナが居た。
「ッ!」
「純粋な身体能力なら、こっちに分がありますよね」
ギリギリで反応出来たウーマの体が、エトナの背後に生成された分身と入れ替わり、黒い刃が切り裂いた部分から水が噴き出す。分身の体がただの液体に戻り、崩れていく。
「それに――――」
エトナが、振り返る。そこには、目を見開いたウーマが居た。
「種が割れた手品なんて、私には通じません」
黒い刃が閃く。ウーマの腕と、握られた青い剣が宙を舞った。
「私を水面に分身を生み出したなら、本体の位置は私の真後ろです」
「ッ、やるね……!」
エトナの黒い刃が、何度も閃く。ウーマは受け止める剣も無い中で何度も凌ぐが、遂にエトナの刃がその首筋に触れようとして……また、ウーマの体が水となって崩れる。
「また、後ろですよね」
「ッ!!」
振り返り様に振るわれた黒い刃が、ウーマの残った片腕を斬り落とした。
「その技、何かを水面に見立てて分身を出すって言ってましたけど、その何かって敵だけですよね?」
「ははっ、そのッ、通り……だッ!」
ウーマの水鏡。その水面に選べる対象は敵だけだ。今までエトナ以外を水面に分身を生み出していなかったことからエトナは気付いた。
「これで、終わりです。ウーマさんっ!」
「は、ははっ!」
詰み、だ。分身を展開できる位置は、ウーマとエトナとの距離と同じだ。つまり、ここまで近付かれてしまえばエトナの真後ろにしか分身を出すことは出来ない。が、真後ろに分身を出したところでここまでの至近距離ならエトナの猛攻を凌ぐことはできない。
「
黒い刃が振り下ろされる。それを仰け反りながら回避するが、その隙に差し込まれる短剣が白く煌めく。
「しぶとい、ですねっ!」
神速で突き出される短剣。回避は間に合わない。しかし、ウーマの腹部が深い青色の水に変じ、短剣はとぷりと水の中に沈んだ。
「は、はっ! そう、だ、ろうっ!?」
短剣が引き抜かれると、液体化していた腹部はぶくぶくと元に戻った。
「
が、振り上げられる黒い刃にまた腹部が水に変じ、その中を刃がすり抜けていく。
「その、水になる力っ! 無敵じゃ、ないですよね!」
黒い刃に続く短剣が、肩辺りを切り裂こうとするが、そこも液体化して短剣がすり抜けた。液体と化した腹部と肩、そこが元に戻ろうとする。
「だって、本当ならもっとこの能力も使ってるはずですよね!」
黒、白、闇、光。連続して振るわれる刃。絶え間ないそれは、まるで舞踏のようだった。
「ッ、ぐ、ぅ」
肩、足、腹部、追い詰められたウーマの体が、どんどんと水に変わっていく。最早、体の半分が液体と化したとき、ウーマの体がぐらりとバランスを崩して傾いた。
「なるほど」
胸、首。通り抜ける刃。体が水に変化する。
「
頭、腰。ウーマの体の殆どが、水になった。
「ッ、ぅ……」
不安定な体。変質したそれに耐えられず、ウーマの体が傾いた。
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