崩れ行く騎士団
六の騎士、蝋獪のアーウスは葬られた。合流したススとイシャシャが相対するは九の騎士、彷徨のトルクと未だ姿を見せていない透明な魔弾の射手だ。
「
目の前で葬られたアーウスを悼む暇も無く、彷徨のトルクは斬りかかった。一瞬にしてススの目の前に現れ、一振りから二つの斬撃が放たれ、ススの両腕を落とさんとする。
『成る程な。中々の剣技だ』
しかし、ススはその一瞬の攻撃にも反応し、刀を横に振り抜いて斬撃を弾いた。
「
斬撃を弾かれながらも、赤いオーラを放ちながら振り下ろされる力強い斬撃。
『ふむ、それは良くないな』
力強く、そして速い斬撃。しかし、その斬撃はススに向けるには単調すぎた。
「ッ!」
斬撃をすり抜けるようにトルクの前に現れたススは刀を居合の要領で振り抜き、その首を落とそうとする。
『ほう』
刃がトルクの首に触れる寸前。刃とトルクの間で暴風が生じ、ススの刀が弾かれる。トルクは後方まで弾き飛ばされる。
『新手か』
呟くススの視界の端、緑色の和装の男がゆったりと歩いて来る。
「……刀、使い……か」
『如何にも』
和装の男の手には、刀が握られている。
『成る程な……其方も、赤帝騎士団なる精鋭か』
「……いや」
男は首を振る。
「俺は……単なる、侍だ……元は、傭兵だった……」
風が吹いた。
「それで……過ごしている間に、身内が出来た……」
男の刀に、緑色の風が纏わり付く。小さな竜巻が刀を取り巻いている。
「……国に、人質に取られた……そうして……」
男は、刀を構えた。
「俺は、死の宝珠に取り込まれた」
見える風。緑色の風。
「願いは……一つ、だ」
ススと男が向き合う。
「俺と戦え。そして……俺を殺して、死の宝珠から解き放ってくれ」
二人の侍が、向かい合う。
『――――相分かった』
瞬間、暴風が吹き荒れた。
「
『
研ぎ澄まされた風の刃がススに迫るが、ススは雷鳴のような音を響かせながら男の後方まで一瞬で移動する。
『スス……露払いは、済ませた』
『イシャシャか。有難い』
イシャシャの言葉にススが辺りを見渡すと、そこら中に鎧や剣が転がっている。あの橙色の炎で葬り去ったのだろう。
『立ち合い、か……勝て』
『承知』
瞬間、左右から同時に迫る侍の男とトルク。ススは侍に向き合い、イシャシャはトルクに向き合った。
『ッ、良い剣だ……』
「
感嘆の声を上げるススに刀を向ける侍の男。彼の周囲に、緑色の風で作られた刀が数本浮き上がった。
『……拙は、ススだ』
「……ニノヤ」
短く名乗りを返した侍の男、ニノヤ。彼の周囲に浮かんだ数本の風の刀が、ススに向く。
「風刀乱舞」
『雷応陣』
ススに躍りかかる合計八本の風の刀。それに対してススは刀を鞘に直して顔を伏せた。
『全て、見切る』
自ら視界を塞いだススは迫る八本の風の刀を気配だけで察知し、全てを見切り、回避した。
「
しかし、追い詰めるように迫るニノヤの刀。彼の体を覆う風の狼が生まれ、ニノヤと連動するように駆ける。
『雷刃昇』
ニノヤがススの間合いに入った瞬間、鞘に入ったままだった刀が抜き放たれ、ニノヤの刀を上に弾いた。同時に、周囲に浮かんでいた風の刀も霧散する。
『
刀を弾かれて体勢を崩したニノヤと、刀を振り抜いた姿勢のスス。先に動いたのはススだった。振り抜かれた姿勢のまま僅かに動かされた刃から、小さく雷光が迸る。
「ッ!」
ダメージは無い。しかし、ニノヤの手首辺りに直撃した雷光は痺れによって刀を取り落とさせた。
『
得物を失い窮地に陥ったニノヤに必殺の一撃を浴びせようとするスス。しかし、ニノヤは刀を拾わず、その手をススに向かって押し出した。
「
押し出された手を起点に発生した暴風はススを後ろに押し退けた。
『……少し、急いたか』
自省の言葉を呟きつつ、ススは刀を構えなおす。
「
ニノヤも刀を拾い、八本の風の刀を作り直した。
『そろそろ、仕舞いとしよう』
「……あぁ」
二人は刀を鞘に納め、顔を伏せた。互いに居合抜刀の構えだ。
『……』
「……」
場を支配する静寂。その緊張が、限界まで張り詰めた瞬間。
『神代流』
「風神剣術」
静電気を肌に感じる。それを静かな風が吹き飛ばす。
『
「
ススの剣から雷光が瞬き始める。張り詰めていた風が弾け飛び、さっぱりと空気が澄み切っていく。
『
「
轟く雷鳴。瞬く雷光。吹き荒ぶ暴風。通り去る神風。
『……』
「……」
ほんの一瞬、雷神風神が顕現したかのような斬り合いの果て。
「……み、ごと」
倒れたのは、風の侍。ニノヤだった。
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