亡霊と不死者
黒い布切れを纏った黒い霧の体を持つ亡霊。彼の不明瞭な手に握られた鈍い銀色の剣は彷徨のトルクに向けられている。
『……緋蔭流、イシャシャ』
「……九の騎士、彷徨」
鈍い銀色の剣に赤く火が灯る。幅広の刃に白いオーラが纏わりつく。
『
「
白いオーラは狼の頭の形を取り、斬撃と共にイシャシャに迫る。それに対抗するように……赤い閃きが、走る。
「ッ、
トルクの剣をすり抜け、繰り出された赤い斬撃はトルクの胸に内側から燃えるような赤い傷跡を付けた。それかた追撃を入れようとするイシャシャにトルクは後ろへと
「……亡霊、か」
『……お前も、そうだろう』
イシャシャの返答に、トルクは思わず笑みを浮かべた。
「違い、ない……な……」
トルクの持つ剣、その刃から神聖な光のオーラが溢れ始める。今の斬り合いで、イシャシャの霧の体はただの斬撃では斬れないと気付いたらしい。
「俺、は……冒険者、だった……」
故に、トルクは知っている。思い出した。目の前の霧の剣士の正体を。
「
『彷徨』のトルクと、『
「
魔術で象られた光の刃がイシャシャに向けて放たれ、それと共にトルクは
『無、為……』
光の刃が到達する寸前で、イシャシャの体は幻のように消え去った。
「消え、た……? 気配が、な――――」
突如背後に現れたイシャシャ。と、振り下ろされる剣。トルクは、鈍く光を弾くその刃をギリギリで回避した。
『……悪く、ない』
気配を消していたイシャシャの斬撃をトルクが避けられたのは、トルクが冒険者時代に重ねてきた勘のお陰だった。
「
『逃げる、か?』
イシャシャの間合いの内では、確実に負ける。剣の冴えでも、身体性能の差でも、相性でも。故に、トルクは距離を取った。ほぼ九十度で、地面に沿うように高速で空中を進むトルク。本来上への推進力である
『逃がしは……しない』
しかし、幾ら距離を取ろうと転移魔術の使い手であるイシャシャの前では無意味。イシャシャは転移によってトルクの前まで移動し……
「――――刃殺領域」
四方八方から迫る無数の刃に囲まれた。
『
無数の刃。聖水のようなものを滴らせるそれらに突然囲まれても動揺一つ見せないイシャシャは、扇を開くように剣を振るった。赤い軌跡が宙を舞う。その軌跡に触れた刃は弾かれ、散らされる。
「ッ、
『
完全に対処されることを想定していなかったトルクは焦りながら逃げようとするが、それより速くイシャシャの剣がトルクの首を刎ねた。
「……そう、か……」
地に落ちた首が、僅かに動き、呟く。
『葬火鳳閃』
葬る炎が、首に、体に、纏わりつき、この深い深い奈落の底から、空へ天へと還していく。
「……ありが、とう」
彷徨のトルク。目を閉じると、その意識は完全に焼失した。
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