骸と骸と骸と骸と
一の騎士、三の騎士、八の騎士、十の騎士、十二の騎士。葬られ、無力化され、戦力外となった五人。しかし、ルファス帝国には残り七人もの赤帝騎士団が残っている。
「キュ、キュゥッ!」
鳴き声を上げるのはアース。
「キュウッ!」
彼が鳴く度に、死霊術が、土魔術が発動し、アンデッドやゴーレムが暗黒の世界に生み出される。増え続ける戦力は、不死の兵隊達を抑え込むことに成功している。
しかし、死の宝珠はそんなアースを先ず第一の標的に据えていた。
「……蝋よ」
赤帝騎士団、六の騎士。蝋獪のアーウスは兵隊の中に紛れ、老け込んだその素顔を兜で隠しながら、自らの力を行使した。
「キュ、キュウッ!?」
迫るは白い蝋の波。土竜の巨体をも呑み込みそうなそれを見てアースが思わず悲鳴を上げるが、その間にアースを超える巨体が潜り込む。
『グォオオオオオオオオオオッッ!!!』
それは竜だ。赤く大きな竜。十二ある分身体の一体でしかないそれは、容易に蝋の波を阻んだ。
『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』
「……ッ」
アースの代わりに蝋の波に吞み込まれたかに見えたディアンの分身だが、凄まじい咆哮と共に炎が溢れ、蝋は溶け、そして燃えていく。
『其方、蝋使いだな?』
「ッ!?」
蝋獪のアーウスの背後にいつの間にか現れていたのは、黒い骸。
『やはりか。斬らせてもらう』
動揺を見せたアーウスに斬りかかろうとするスス。流れるように振り抜かれた刀。しかし、アーウスの首は落ちていない。
『……ほう』
刀は突如現れた軽装の男の幅広の刃に受け止められ、そんなススの背後から鋭い蝋のナイフが無数に迫る。
『弾を避けるも刃を弾くも、拙の得意分野よ』
ススは軽装の男の刃を強く弾くと、背後から迫る無数の蝋製ナイフを弾き、それに紛れて真っ直ぐに進む
「……魔弾、が、見えるか」
アーウスは驚いたように言う。
『否。しかし、見えずとも捉えることは出来る』
続いて迫る二発の透明な弾丸も、ススは軽く身を動かすだけで回避した。
「そう、か……其の方、ならば……」
『御免』
考え込むように呟くアーウスの頭を斬り落とそうと再度刀を振るうスス。しかし、またもや幅広の刃が邪魔をする。
『ほう、其方……中々』
「九の、騎士……彷徨」
冒険者然とした軽装の男は、答えるようにそれだけ呟き、幅広の刃をススに向ける。
『そうか、拙は侍。名を……スス』
名乗りを返したススに、地面から蝋の腕が、透明な弾丸が、幅広の刃が全く同時に迫る。
『甘い』
蝋の腕は真っ二つに斬られ、弾丸は避けられ、刃は受け流される。
『息を完全に揃えては却って対処しやすいものだ。こういうものは、ほんの僅かに、僅かにだけ呼吸をずらす。そうして、逃げ道を塞ぐ』
ススはフッと息を吐き、刀を鞘に納めて居合の構えを取った。
『――――こうやってな』
瞬間、雷鳴のような音が轟き、ススの姿が一瞬にして消える。現れるは彷徨の背、アーウスの眼前。
「ろ、う」
ギリギリで蝋がアーウスの体から沸き上がり、刀とアーウスの間に入り込む。速度は下がるも硬化した蝋を切り裂きながら進む刃を、アーウスは何とか体を逸らして回避した。
「ッ」
しかし、アーウスはそこで気が付いた。もう取り返しのつかない、回避不能の段階になってから気付いた。
『――――葬火鳳閃』
暖かく燃える橙色の火は、それを纏う刃は、アーウスの首を斬り落とした。それを為したのは、亡霊の剣士、イシャシャだ。
「ぉ、ぉ……皆、を……解き放って、くれ……」
その橙色の炎は分かたれた首から上と下の両方に燃え移り、そのままその体を燃やし尽くした。アーウスの体は灰一つ残さず、代わりに鎧だけが焦げもせずにその場にガタリと崩れた。
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