赤帝竜

 竜の要素のある人と言うより、最早人の形をした竜と言うべき姿となったクレッドを相手に、エクスはただ獰猛な笑みを浮かべている。


「ハハッ、良いなァ! 良いじゃねェかよォ? そうだなァ……テメェの矜持とやらに免じて、一個教えといてやるよォ」


 紅蓮の槍を構えながら、クレッドは目を細める。


「オレは、戦闘が長引けば長引くほど強くなる。具体的に言やァ、テメェがオレを傷付けるほどにオレの力は増していく」


「……なるほどな。ならば、一撃で殺せばいいだけだ」


 クレッドの言葉に、エクスはニヤリと笑う。


「……来いよ」


 悠然と構えるエクスに、クレッドは槍を構える。


「赤帝紅蓮槍」


 紅蓮の槍から真紅のオーラが漂い始める。


「赫王撃」


 振り上げた巨大な槍が、一直線に振り下ろされる。大きく踏み込みながら繰り出されるそれを回避することは難しい。


氷斬裂爪フローズン・マサークル


 故に、エクスはニヤリと笑ってその槍を受け止めることにした。氷の吹雪を纏っているようなその両爪をクロスして同時に振り上げ、通過した部分の空気を凍らせながらクレッドの槍を受け止める。


「ッ! こ、れは……ッ!」


「ッ、中々やるじゃ、ねェか……ッ!」


 かちあう槍と爪。力は僅かにクレッドの方が強いようで、エクスは少しずつ押し込まれていくが、エクスの爪に触れている部分から少しずつ槍が凍っていく。


「さァ、どうすんだァ! このまま槍を凍らせるかァ!?」


「決まって、いる……ッッ!!!」


 クレッドはじわじわと凍てついていく槍を握る力を強める。


「凍るより先に、お前の頭をかち割ってやるッッ!!!」


 クレッドの体から、紅蓮の槍から炎が噴き出し、エクスは更に追い込まれる。


「これでも、かァ!?」


 強く地面を踏みしめるエクスの足から冷気が発せられ、地面が凍っていき、それはクレッドの足元まで迫る。時間が経てば、クレッドは足から凍ってしまうだろう。


「舐める、なよ……人狼ッ!!」


「ぐッ!?」


 しかし、クレッドはそれでも振り下ろした槍を引き下げない。そこにあるのは竜の誇りと、戦士の矜持だった。


「オォオオオオオオオオオオオオオォオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」


「ぐッ、ぬ、ぉッ」


 クロスされていた爪の防御が、崩された。


「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」


 紅蓮の巨槍が、エクスの脳天に直撃した。


「ぐ、ぅぉ、ぉ」


 人狼の頭が、ひしゃげる。頭頂部は完全に潰れ、顔は左右非対称に歪む。脳みそも恐らく無事ではなく、エクスは半壊した頭を支えることも出来ず、ふらりと倒れかける。



「『――――涯天炎破、焦王の槍』」



 太陽を思わせるような熱と光。それを感じた瞬間には、エクスの胴体には大きな穴が開いていた。頭は潰れかけ、胴体にも大穴を空けられたエクスはバランスを完全に失い、後ろに倒れようとする。


「『涯天炎破、炎天の五月雨』」


 再度、暗黒の世界を照らす赫灼たる光。それは数度瞬き、エクスを蜂の巣のように細かく穴だらけにした。


「……人狼、エクス。お前の名は覚えておこう。我らがこの暗黒の世界から抜け出し、再び栄光を取り戻した時には、その名を石に刻んでやる」


 最早原型を留めていないエクスの体。マグマのような液体が傷口から滴るそれから視線を外し、クレッドは次の標的を処理すべく踵を返した。


「何だ……?」


 瞬間、彼の魂と繋がっている死の宝珠から強い警告の意思を感じた。まさかと思い、振り返るクレッド。



「――――第二ラウンドだァ、帝国人」



 そこには。先程よりも存在感を増しているように見えるエクスの姿があった。

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