赤帝騎士団
その男には、プライドがあった。誇りがあった。それは、赤帝騎士団としての誇りだ。偉大なる皇帝に仕える者としてのプライドだ。
彼は、死の宝珠に操られようと関係なく赤帝騎士団が、ルファス帝国が敗北するのを許せなかった。例え、自らが最も敬愛する皇帝ジールが敗北を、滅びを望んでいようとも。
「俺こそが……赤帝騎士団、一の騎士」
男は戦場を見渡した。死の宝珠の支配下にありながらもその命令に逆らおうとしないその男は、寧ろ自由に体を動かすことが出来た。
「『紅蓮』」
その男こそ、赤帝騎士団の一の騎士にしてその名の由来。赤より深き赤色の称号を受けた最も忠誠心高き戦士。
「戦況は……あの土竜のなり損ないが厄介だな。最も潰したいのはあの男だが、流石に厳しいだろうな」
アンデッドやゴーレムを無数に生み出していくアースを睨む男。今や不死の力を手に入れたルファス帝国軍だが、それでもネクロ達を圧倒するには至っていない。兵士達は次々に封印されるか再生不能の状態に追い込まれていく。また、司令塔であるネクロを狙うのは困難だろう。優秀そうな取り巻きがネクロを守っている。
「懐剣、光鞨、黒刃……鈍色まで敗れたか」
帝国の敵を滅する為、死の宝珠とも協力関係を築いている男は、情報を受け取ると忌々し気に呟いた。
「……とはいえ、それだけだ。たった数人の敗北がそのまま敗戦に直結する程、我らが帝国は甘くないぞ」
男は真っ赤な鎧を揺らし、巨大な槍を担いで歩き始める。
「観察は終わりだ。先ずは、あの土竜……それから、吸血鬼は後回しだな。次は、オーガだ。そして……ッ!」
紅蓮の鎧を纏う男の前に、紅蓮の炎が溢れた。
「――――よォ、皮算用は済んだかァ?」
現れたのは人狼だ。純白に炎と氷を纏う、永久焦土の人狼だ。
「……お前は」
男は、人狼を……エクスを睨みつけた。
「良いだろう。お前から片付けてやる。凡人の飼い犬め」
「ハッ、だったらその犬に嚙み殺されるお前は凡人以下だなァ? 下らねえ挑発は良いからよォ……やろうぜ? 結構、ワクワクしてんだよ。テメェは中々強そうだしよォ」
本人は無力な魔物使いを揶揄する挑発は、その主に忠誠よりも親しみを持っているエクスには通じなかった。
「中々、だと? 犬風情が、この俺を評価できるつもりでいるのか?」
「さァな。だが、殴り合えば分かるだろ?」
瞬間、エクスの体が掻き消える。
「ッ!」
「ほォ、これに反応出来んのか。人間の癖に中々やるみてェだなァ?」
背後まで一瞬で回ったエクスの鉤爪を、男は振り返りながら槍で弾いた。
「……なるほどな。我らが帝国の兵を好き放題出来るだけの実力はあるらしい」
「お褒めに預かり光栄だァ、帝国人サマ。探した感じだとテメェが二番目に強そうだったがどうなんだァ?」
ここに来るまでに何人もの帝国兵を八つ裂き、氷漬け、灰に変えてきたエクスは男の中の警戒対象の一人だった。
「ほぉ、犬なだけあって鼻は効くらしいな。確かに俺はこの帝国でジール様を除けば最強の戦士だ」
男は初めて笑みを浮かべ、巨大な槍を握りなおした。
「『紅蓮』のクレッド・ベルフィスト。昔は『赤帝』と呼ばれていたからな……今は、赤帝騎士団の一の騎士としてこの槍を帝国が為に振るっている」
「ハハッ、大国の二番手。良いじゃねえかァ……本気で来いや」
瞬間、クレッドの体がブレる。
「これが帝国流の槍術だッ、人狼ッ!! そうだ、お前の名を言ってみろッ!!」
「ハハハッ、良いなァッ! 帝国流ッ! 荒っぽくて豪快で力強い、オレ好みだぜェ!?」
エクスの目の前まで
「聞こえなかったか犬っころッ! 名を名乗れと言っているッ!!」
「あァ? オレはエクスだッ!! 神呪を乗り越え、運命を覆した凍てつきの人狼ッ!! 耐久力と持久力と瞬発力と火力には自信があるぜェェッ!!!」
鉤爪と剛槍が何度もかちあい、弾かれる。
「そうかッ、貴様はこのルファス帝国の名誉の下に葬ってやるッ!!」
「あァッ!? ちょっと意味分かんねえなァッ!!」
勢い良く振り下ろされた剛槍と振り上げられる鉤爪が、今までで最も強くぶつかり合った。
「ッ! 中々やるらしいな、人狼。だが……ここからが帝国だ」
「あァ? 意味分かんねェが……良いぜェ、こっちもフェーズ2だ」
両者は笑みを浮かべ、構えを取り直した。
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