血と鋼
踵を返したイルグ。同時に彼の周囲を舞っていた金属板が消え失せる。
「――――『烈血』」
瞬間、イルグの背後に出来ていた血だまりがそのまま襲い掛かった。
「ッ!」
イルグが振り返るよりも早く血だまりは背中に到達し、鎧の隙間から内側へと入り込んでいく。
「ッ、ぐッ、ヴぉ、ぃ」
鈍色の鎧の中で血が溢れ、暴れ、混じり合う。
「『鉄芯ッ、硬、ぅ……身ッ!』」
鉄芯。その力が彼の体に巡っていく。彼の肉体がまるで鋼のように硬化していく。しかし、それも既に手遅れだ。彼の体内に完全に入り込んだベレットは少しずつ確実に彼の体を食い破っている。
「ぐッ、が、ヴぉ……ッ!」
対してイルグは体内のベレットを攻撃する手段がない。一か八か、その鋼鉄を自分の体に突き立てようとも、液状になっているベレットにダメージは与えられない。
「……ッ」
少しずつ傷付いていく体に、イルグは閃いた。閃いてしまった。故に、それを取り止めることは出来ない。死の宝珠には、逆らえない。
「『鉄芯……鋼檻胞』」
彼の体から鋼鉄が滲みだしていく。それは大きく広がり、イルグを中心とした球体を成していく。完全な球体になると、それはゆっくりと縮まり、イルグの体をぴったりと覆うように圧縮されていく。
「……」
出来上がったのは、騎士の形をした金属の像。その内側にはイルグと、ベレット。イルグが術を解除しない限り、ベレットは外に出ることは叶わない。また、イルグも死の宝珠がある限りこの術を自らの意思で解除することは叶わない。ベレットはネクロの従魔ではないので、
「……すま、な……い……」
イルグは、僅かに残った精神力でそれだけ呟いた。ベレットはどれだけ藻掻こうとこの鋼鉄の檻を破ることは出来ないと悟り、心の中で溜息を吐いた。
「いや」
イルグの体内で暴れていたベレットが、血だまりが、完全に動きを止める。
「別に……」
血だまりを内包する鋼の騎士。それは正に、アイアンメイデンのようだった。そんな残酷な騎士像の横で、ぴちゃりと水音がした。
「……」
赤い、ドロリとした液体が、ぴちゃり、ぴちゃり、膨れ上がっていく。
「……ぅ」
雨粒程だったそれは、少しずつ成長し……人の形を成せるまでに大きくなった。
「ぅ、ぉ……っと」
赤い人型の液体。それは突然色を取り戻し、ばしゃりと余分な血液を弾き出すと同時に完全な人間の姿へと移り変わった。
「ふぅ……別に、大丈夫ですよ。戻れるんで……って、まぁ、聞こえてないか」
ベレットは血液を操り、落ちていたボロ布同然の服を纏うと、鋼鉄の騎士像を一瞥した後、次の獲物を探して歩き出した。
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