黒刃に続き、鈍色がお送りします。

 巨人との戦いで散っていった黒刃は、精鋭のみが揃う赤帝騎士団の中でも八番目の地位である八の騎士と呼ばれていた。


「へぇ、雑兵ばっかじゃないらしい。俺もちょっとは強い奴と戦いたかったところだから、丁度良かった」


「……」


 そして今、ベレットの目の前に佇むのは、赤帝騎士団『鈍色』のイルグ。三の騎士だ。


「口も聞けないんですか? それは残念。アンタみたいな強者とは話しながら戦うのも好きなんですけどね……ま、いいや」


 鉛のような鈍い色の鎧、灰色の瞳。抜き放たれた剣も鈍い輝きを放つ。どこを見ても色の無いような地味な見た目だが、彼こそ赤帝騎士団の第三位の実力者なのだ。


「俺は烈血、吸血鬼。んじゃ、行きます」


「ッ!」


 深い青色の髪が揺れる。血が舞う。それは吸血鬼の血だ。血は四方八方へ拡散し、多方向からイルグを襲う。


「……」


 鈍色の鋼鉄の鎧が、その見た目からは想像できない程の俊敏さで動く。血の包囲を潜り抜け、バスタードソードを下から上へと斬り上げた。


「ぐがッ……っと、油断してたなぁ。良くない良くない」


 その刃は見事にベレットの首を捉え、喉仏を打ち砕きながら首を半分辺りまで切り裂いた。しかし、伝説の吸血鬼である彼を死に至らしめるまでは行かない。首の皮一枚で繋がった彼の体は直ぐに再生し、元通りになってしまった。


「純粋な戦士タイプっぽいアンタが俺を殺せるとは思えないですけど、まぁ油断は禁物なんで」


 ベレットは自分を戒めるように再生し繋がった首をコツコツと叩いて言った。


「ただ、こっちも殺せるかは微妙か……考えずに行こう」


 不死身に近いベレットだが、死の宝珠の恩恵を受けている彼もまた不死身に近い。完全に殺すにはグエリロが自爆したように塵一つ残さず消滅させるしか無いだろう。若しくは、死の宝珠を破壊するかだ。


「『烈血』」


 彼の体から大量の血が噴き出すと、血は空中で固まって無数の刃と化す。


「『刃と成り、行け』」


 数え切れないほどの血の刃がイルグを襲う。


「『……鉄芯、鋼障』」


 赤い刃が触れる寸前、イルグの体を囲むように鈍く光る鉛色の金属板が無数に現れ、血の刃からイルグを守った。


「へぇ、使い勝手の良さそうな能力だ。俺なんて自分を傷付けないと使えないのにさ」


 ベレットはイルグを中心に回る無数の金属板を見て言った。


「『鉄芯、剛剣』」


「……本当に使い勝手の良さそうな能力だなぁ。俺の血と似てはいるけど」


 イルグの周りの金属板が融合し、一つの大きな剣となる。それはゆっくりと空中で傾くと、刃先をベレットに向けた。


「ッ、速いなッ!」


 金属のみで作られた人の体程の大きさの剣は、意外にも高速でベレットに迫った。


「これは……しょうがないか」


 射られた矢のような速度で、しかも追尾しながらベレットを貫こうとするそれから逃げ続けることは不可能だと悟ったベレットは、諦めて立ち止まった。


「ぐッ、がべェッ、うヴぉァ」


 巨剣がベレットに直撃する。腹に突き刺さり、そこから胴体を開き、脚を両断し、頭を潰す鈍色の巨剣。


「……」


 あっという間に血だまりに変わったベレットを数秒眺めた後、イルグは踵を返した。

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