完全で不完全な
カタリ、僕の隣にイヴォルが現れる。
「悪魔よ。奴の魂を引っ張り出す気だろう?」
イヴォルは僕の隣に立つネルクスに声をかけた。
「えぇ、そのつもりでした。それでも良いのですが、しかし……妙なことに、黒きものの傷が再生していません。アレの再生力が失われているとすれば、そんな迂遠な手段をとる必要はありませんからねぇ」
「ふむ。確かにそうだな……だが、それは今戦っている彼らに任せよう。一人の人間を効率よく囲めるのは三人が最大だ。尤も、アレは人間ではないどころか、この場に居る人間は我らが主くらいのものだが」
言われてみれば、エトナとメトが黒きものに付けた深い傷は未だに再生していなかった。今までの黒きものならば腹に穴が開いた程度の傷は一瞬で再生出来ていた筈だ。
「魂の位置はもう見えているのだろう? となれば、後は魂のある部位を切り出すか直接魂を引っ張り出すこと、そして精神攻撃への耐性を突破することのみだ。そうだろう?」
「えぇ、その通りです。が……それが難しいのですよ。まさか、賢者の知恵を貸して頂けるのでしょうか?」
「当然だ。その為に私はここに居るのだからな。とはいえ、貸すのは知恵ではなく力だ。奴の耐性は私が消し去ってやる」
耐性を消し去る。キマイラにも食らわせたアレだろう。
「クフフフ、それは有難い。では、後は魂のある場所を切り出すだけですねぇ」
「直接魂を引っ張り出すのは無理なの?」
僕が尋ねると、ネルクスは首を振った。
「えぇ、無理でしょうねぇ。そもそも、直接引っ張り出すというのは格下に対するやり方ですからねぇ……アレを相手には流石の私でも厳しいです」
「なるほどね」
だったら、どうしようか。流石にアレの体を一部でも切り取るなんて難しい。メトが腹部に風穴を開けてくれたが、二度もあのレベルのダメージを簡単に負ってはくれないだろう。
『話は聞かせてもらった』
『……』
背後からの声。ススとイシャシャだ。
『魂のある部分を切り取れば良いのだな? ならば我々の本領だ。集中すれば、魂の位置も捉えることが出来る』
「良いのですか? アレが再生しないところを見るに、いつかは斬り殺せるかも知れませんが」
『構わぬ。というか、アレの首を斬ったところで死に直結するとは思えない。奴には臓器どころか器官の概念すらないだろう。粉微塵に切り刻んでも死ぬかは分からんのでな。拙は其方の提案に乗ることに決めた』
「なるほど。では、頼りにさせて頂きましょう」
頷くネルクス。その横から更にネロがやってくる。
「よぉ、俺は魂の位置とかは分かんねえが……あの骨賢者が耐性を消し去ってくれるんだろう? だったら、俺の空間魔術で削り取っちまうのが一番速いよな?」
「確かに耐性さえ無ければ空間魔術は無類の強さを発揮しますからねぇ。彼らと共に狙ってみてください」
「クケケ、任しとけ」
二人の剣士に続いて剣を抜くネロ。ネルクスは目を細める。
「……我が主よ」
「ん、どうしたの?」
「なんというか……自分主体で計画が進んでいくのは妙な気分ですねぇ。いつもは裏方というか、影から支える立場ですので」
神妙な顔で言うネルクスに思わず僕は笑みをこぼした。
「あはは、ネルクスもそんなこと思うんだね……っと、大丈夫かな?」
ガァォンッ、凄まじい音が響き、その音に続いてエクスが僕の横に吹っ飛ばされてくる。
「ぅ、ゥ、ォオ……ハハッ、オレは、死なねぇッ!!」
横に転がった人狼の姿は無残と言う他なく、皮は殆ど剥がれるか引き裂かれ、肉は抉れ、チラチラと見える骨には罅が入っていた。
だが、僕がポーションを一瓶かけるだけで彼の体は高速で再生していく。骨の罅は塞がり、抉れた肉は巻き戻り、新たな皮が形成されていく。勿論、ポーションの効能だけでもエクスの再生力だけでもなく両者が合わさって発揮された再生力だが、それでもポーション一本で戦線復帰できるのは驚異的だ。滅茶苦茶高いポーションとは言えね。
「ハハハッ、俺を殺せるかな? 黒きもの。言っとくけど、俺は生命力だけは自信があるんだよ」
最早血だけになっても戦い続けるベレットを黒きものは自身の体に取り込んで少しずつ殺そうとしているが、無駄だ。あの吸血鬼は血の一滴からでも蘇ってしまうらしい。逆に、一滴の血も無くなれば即死するらしいけど……そんなのは人間も同じだからね。
「ヴぁ、ぇ」
そして、彼らが相対する黒きもの。彼の体には無数の傷が付いているが、未だ致命傷に至るものは無い。更に言えば、幾ら再生力がかなり落ちたと言えど、浅い傷ならば少しずつ治ってしまう。
「ねぇ、お兄さん! 僕も手伝えることある? あの真っ黒いのを捕まえようとしても、根が焼けちゃって届かないんだ……」
「んー、そうだね。僕が合図するときにもっかいチャレンジしてみようね。それまでは僕の隣で一緒に見てようか」
イヴォルの耐性無効に、シルワの拘束、剣士組の斬撃。道筋は見えたね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます