黒と人狼
どこまでも広がる漆黒の空間、そこに溢れる黒きもの達。彼らは先ず人狼のエクスを狙うことにしたようだった。
「ヴぁ、ぅ」
「ヴぁ、ぇ……」
「ヴぁぁ、ォ、ゥ」
四方八方から飛び掛かる黒きもの。変幻自在の彼らの体は腕が刃となり、鞭となり、また体そのものが矢になっている者も居た。
「ハハッ、遅ェ、遅ェ、遅ェッ! 随分なまっちょろいんじゃねェかァ!?」
しかし、矢継ぎ早に襲い来る攻撃をエクスは悉く回避し、捌き、受け流す。刃は届かず、鞭はすり抜け、矢は折れる。
「さて、ここじゃ巻き込んじまうからなァ……折角のだだっ広いクソ無駄空間なんだ、有効活用しようぜェ」
そう言い放つと、エクスは膝を深く折って力を貯めると、前方に向かって大きく跳躍した。
「黒い霧がなんだァ? 全然怖くねえなァッ!」
当然、飛び込んだ先は黒き霧の中。だが、体を覆う氷のコーティングと全身から溢れる炎の影響で霧は人狼の体を蝕むことは出来ない。
「もうちょい奥まで突っ込むか……まだ一回も死んでねェし、奈落も案外ぬるいんじゃねェのかァ?」
更に、奥へ奥へと跳躍を繰り返すエクス。その度に周辺の霧が一瞬にして晴れていく。
「っしゃ、こんなもんで良いだろ。っと、鬱陶しいぜ黒助ども」
かなり遠くまで移動したエクス。しかし、黒きもの達はそんなエクスを逃げているとでも勘違いしたのかより熱烈に追いかけた。
エクスを再び取り囲んだ黒い人型達は、懲りずに体を武器に変化させて襲い掛かるが、簡単にあしらわれる。
「そもそもよォ、その程度じゃァ……オレが本気を出しただけで届きすらしねェよ」
ジリ、熱気が溢れ、焼き焦げるような臭いが漂う。
「そういや、周りを気にせず本気を出すのは初めてかもなァ……焼けろ」
瞬間、エクスの半径数百メートルに爆炎が溢れた。
「近付けるか? 近付けねェよな? 耐えられるか? 耐えられねェよな?」
黒き霧は消え去り、黒き人型は溶け落ちた。
「さぁ、テメェも本気で来いよ。全力で来やがれ。他に割く戦力なんて考えんじゃねェ……先ずは、このオレをぶっ潰してみろや」
笑みを浮かべ挑発するエクス。
「……」
一瞬の間、闇の空間を包み込む静寂。
「――――ハハッ」
何かを察した人狼が笑った。その直後、全ての方向から同時に黒い濁流が押し寄せた。
「良いなァッ! この量はどのくらいだァ? 五分の一くらいは居てくれよォ? そうじゃねェと面白くねェッ! だが、量だけじゃオレには勝てねェ。頭を使ってみろォ、ほら、やり直しだ」
エクスから溢れる膨大な熱が液状になって押し寄せる黒きものを一瞬にして蒸発させた。
「さァ、次はどうする? 頭使えよ? オレはそォいうの苦手だけどなァ」
エクスを恐れるように一旦引いていく黒きもの達。
「ほォ、そうかァ……なるほどなァ、良いぜェ? 試してみろよ」
下がっていった黒き濁流は黒き霧と混じり合い、しかしどんどんと小さくなっていく。それは圧縮され、次第に人型へと変わる。
「量で駄目なら質。発想は合ってるかもなァ?」
笑うエクスに、ゆっくりと近付いてくる影。どこか警戒している様子のそれは、ジリジリと距離を詰める。
「ビビってんのかァ? だったら良いぜ……オレから殴ってやるよ」
大地を踏みしめ、飛び掛かるエクス。一瞬で黒きものの懐まで入り込んだエクスから発される熱気が僅かに黒きものの体を焦がす。
「オラ」
振りぬかれる拳。同時に荒れ狂う炎の嵐。
「ハハッ、さっきよりはやるじゃねえかァ」
しかし、余りにも速いその拳を黒きものは超至近距離から回避して見せた。溢れる炎も、黒きものの表面を焦がすだけで致命傷には至らない。
「だが、燃やすして殴るだけが芸じゃないぜェ? オレは」
「ヴぁ、ぅ」
反転して殴りかかる黒きもの。彼の手の形状はエクスを模倣したのか鋭い五本の爪になっていた。
「残念だが、オレの長所は破壊力よりも生存力だ」
エクスにも劣らない速度で鉤爪を振るった黒きものだったが、その腕に青い何かが絡み付いていた。
「それ、お前の力で壊せるかァ?」
「ヴぁ、ぃ……ッ!」
それは氷だった。神の呪いにすらも打ち克った咒の氷。帝国最強格の一人である『凍獄』の
「……ヴぁ、ぅ」
「ハハッ、ちったぁ脳みそも働くらしいなァ……あるのか知らねえが」
しかし、その最強の氷に拘束された真っ黒な腕は一瞬だけ液状化することで拘束から抜け出した。そのまま黒きものは後退っていく。
「だがよォ、このオレにタイマンを挑むのは不正解だなァ!」
エクスが地面に拳を叩きつけると、地面から氷が伸びて黒きものの足を拘束した。
「ヴぁ、ぅ……」
「また液状化かァッ!? 読めてんだよんなもんッ!」
足がドロリと溶けて液体と化し、氷の拘束から抜け出した。しかし、抜け出したところを更に覆うように氷が囲い込み、黒きものは全身を完全に拘束された。
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